第4楽章の歌詞はベートーヴェンの意見の表明
しかし、ベートーヴェンは、作曲するために、常にいつも大きなことを考えていました。『「宮廷の雇われ専門職」としての作曲家』から、市民に支持される『「芸術家」としての音楽家』であろう、というような考えです。音楽作品は、それまで注文生産だったものを、作曲家の哲学の発露としての表現であるべきだ...このような理念を持っていたのです。
「第九」第4楽章の、前の音楽を否定するようなこの歌詞は、こういったベートーヴェンの意見の表明だ、としてもあながち深読みしすぎではないはずです。なぜなら、その「芸術家としての自らの存在」に絶対の自信を持っていたからこそ、ほぼ耳が聞こえなくなる、という音楽家としては致命的なハンデを負っているのに、その運命に負けず、死の直前まで作曲し続け、演奏し続けることを成し遂げたからです。
掟破りの「合唱(および独唱)を交響曲に参加させる」というのは、彼のそれまでの音楽のあり方に対する、挑戦でもあったのではないでしょうか?
しかし、皮肉なことに、合唱により、広く知られるようになった「第九」ですが、初演の時以来、長く、「合唱」のおかげで不遇の時代がつづくことになります。(来週に続く)
本田聖嗣