なぜ「第九」が12月の日本を代表するクラシック音楽になったのか(前編)

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第4楽章の歌詞はベートーヴェンの意見の表明

   しかし、ベートーヴェンは、作曲するために、常にいつも大きなことを考えていました。『「宮廷の雇われ専門職」としての作曲家』から、市民に支持される『「芸術家」としての音楽家』であろう、というような考えです。音楽作品は、それまで注文生産だったものを、作曲家の哲学の発露としての表現であるべきだ...このような理念を持っていたのです。

   「第九」第4楽章の、前の音楽を否定するようなこの歌詞は、こういったベートーヴェンの意見の表明だ、としてもあながち深読みしすぎではないはずです。なぜなら、その「芸術家としての自らの存在」に絶対の自信を持っていたからこそ、ほぼ耳が聞こえなくなる、という音楽家としては致命的なハンデを負っているのに、その運命に負けず、死の直前まで作曲し続け、演奏し続けることを成し遂げたからです。

   掟破りの「合唱(および独唱)を交響曲に参加させる」というのは、彼のそれまでの音楽のあり方に対する、挑戦でもあったのではないでしょうか?

   しかし、皮肉なことに、合唱により、広く知られるようになった「第九」ですが、初演の時以来、長く、「合唱」のおかげで不遇の時代がつづくことになります。(来週に続く)

本田聖嗣

本田聖嗣プロフィール
私立麻布中学・高校卒業後、東京藝術大学器楽科ピアノ専攻を卒業。在学中にパリ国立高等音楽院ピアノ科に合格、ピアノ科・室内楽科の両方でピルミ エ・ プリを受賞して卒業し、フランス高等音楽家資格を取得。仏・伊などの数々の国際ピアノコンクールにおいて幾多の賞を受賞し、フランス及び東京を中心にソ ロ・室内楽の両面で活動を開始する。オクタヴィアレコードより発売した2枚目CDは「レコード芸術」誌にて準特選盤を獲得。演奏活動以外でも、ドラ マ・映画などの音楽の作曲・演奏を担当したり、NHK-FM「リサイタル・ノヴァ」や、インターネットクラシックラジオ「OTTAVA」のプレゼンターを 務めるほか、テレビにも多数出演している。日本演奏連盟会員。

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