未知の感染症を「適切に恐れる」ために

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日本のリスク対応の問題点―アマチュアからの脱却―

   本書では、現在の日本のリスク対応について、様々な課題を挙げている。

「官僚は現状説明をさせると極めて優秀ですが、将来起こりうる未知なる状況の想定になると、とても下手になります。しかし、リスク・マネージメントはすべからく、未来のリスク、新たに起こった現在のリスクに対して行われるので、『過去に起こったこと』の知識だけでは対応が十分にできないのです」

   耳の痛い指摘である。確かに、役人の行動原理は、ルールに則って動くこと。ルールが決まっていない場合、あるいは、従来のルールでは対応できない事態に遭遇した場合には、適切な対応を迅速に実行することが難しい。

・「俺たちは間違っていなかった」の無謬主義からの脱却
・「分かったふりをしない」、「無知の知の自覚」

などの指摘は至言である。非常時こそ、既存の意思決定スタイルにとらわれない柔軟な対応が不可欠であろう。

   また、日本のリスコミそのものの不十分さへの指摘も多い。

「(日本のリスコミは)情報を呑み込んで、そのまま吐き出しているだけなんです。咀嚼して、消化して、自分のものにして、自分の言葉に換えたメッセージになっていないんです」

   その結果、人の心に届かず、リスコミの最大の目的である「人を動かす」ことにつながらないのだと指摘する。

   「一所懸命やりました」で留まっている(満足してしまっている)こともアマチュアだという。例えば、医療機関が、感染対策のためにチームを設置したり、会議を開催したり、研修を実施する。こうした個々の対策を実施したことで満足してしまい、本来の目的である感染症を減らした、パニックを防いだといった「結果(アウトカム)」へのこだわりが乏しく、まるで「結果」が出ていない、あるいは「結果」を求めてすらいないという批判である。

   要は、リスコミにせよ、リスク・マネージメントにせよ、本来の目的を自覚して、それを実現することを目標に、プロとして実施すべきとの指摘である。本書では、こうした現状への危機感から、どうすれば、必要な情報が、適切に、情報の受け手である国民に伝わり、実際に動かすことができるようになるかについて、数々の具体例を挙げて、繰り返し説明している。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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