「連邦」を守らなければならなかったリンカーン
同書によれば、リンカーンのこの表現は、1819年のマカラック対メリーランド事件の最高裁判決にあるくだりをリフレインしたものである。この事件は、連邦政府の設立した合衆国銀行の合憲性とメリーランド州による課税の正当性が争われたものであった。メリーランド州は、連邦政府の権限は州に由来するのであるから、州の認めない銀行の設立は違憲であり、その営業を妨害する同州の課税は正当であると主張した。最高裁判決では、これを否定し、連邦政府は、「人民の政府であり、人民によって権限を与えられた政府であり、人民のために権限を直接行使する政府」であるとし、その権限が人民から直接与えられたものであることを述べて、銀行の合憲性とメリーランドによる課税の違法性を結論づけたのだという。
リンカーンがこうまでして連邦を守らなければならなかったのはどうしてだろうか。
『憲法で読むアメリカ史』は、米国の連邦を形作った憲法を軸に米国の200年余りの歴史を通観する。その冒頭では、英国から独立した13州からどうして憲法を作って連邦を成立させなければならなかったのかから説き起こす。連邦成立前の連合(Confederation)には行政府がなかった。連合議会はあるが、独自の徴税権がなく、通商規制権がなく、各州議会の「衆愚政治」を抑制できなかった。したがって、英国の支配圏を継受したと認識された13州とは別に米国憲法によって連邦を打ち立てた時、そこに成立した連邦議会の権限は、まずは独自の徴税権と州際・国際の通商の規制権を持つことから列記して定義された。そして、行政を担う大統領と司法権が帰属する裁判所が設けられた。