オリーブオイル巡礼の旅
こうした業界の闇をテーマに据えつつ、著者はエキストラバージンオリーブオイルを高く称賛する。エキストラバージンを愛するが故に偽装を告発する、悪貨が良貨を駆逐することは許せない、という心情がよく伝わってくる。高価なオイルであり普段使いには馴染まないことから、一部読者におかれては「趣味人の偏愛」と受け止めるかも知れないが、評者は、欧米の歴史・文化・宗教と絡んだこの「聖なるオイル」への西欧人の特別な感情も背後にあるように感じた。
著者は、古代ギリシア神話にはじまる多くの文学作品の引用、イスラエル・パレスチナ紛争地のオリーブ伐採、オーストラリアや北米大陸での新たな高品質オイル生産の取組みなどなど、時間・空間両面を、数年にわたったという取材旅行と文献調査によって縦横無尽に紹介する。そこでは、燃料・灯油・香料・食糧・媚薬とあらゆる用途に用いられたオリーブオイルと人々との関わりが多様な形で切り出されていく。オリーブオイルを用いる地中海文化と、バターやラードを用いる北方の文化の融合も興味深い。オリーブオイルの一価不飽和脂肪酸が健康に良いという指摘から一歩進んで、エキストラバージンに含まれるポリフェノール等の微量成分こそが高い健康効果を示すとの研究も丁寧に紹介される。さながらオリーブオイル巡礼の旅だ。
「本物」のエキストラバージンは、その健康価値が高い微量成分により「苦い」「青臭い」「喉の奥がヒリヒリする」「むせて涙が出る」味わいとなるそうだ。その効用が判るのか、よちよち歩きの幼児までが、エキストラバージンを飲んで咳き込み涙をこぼしながらも「ボーノ(おいしい)!」と言っておかわりをせがむという(本書P231)。本書を読めば、その味わいを読者も試してみたくなることだろう。
酔漢(経済官庁Ⅰ種)