巨大産業に挑む勇気ある告発 エキストラバージンめぐるオリーブオイル偽装の闇

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「エキストラバージンの嘘と真実 スキャンダルにまみれたオリーブオイルの世界」(トム・ミューラー著、実川元子訳)


   オリーブオイルは日本人の食生活でも頻繁に登場する食材となりつつある。抗酸化作用がある、地中海式食事法が健康に良いなどと言われ、オリーブオイル=健康的、というイメージを持つ消費者も多いようだ。

   本書は、そのオリーブオイルの偽装を告発したノンフィクションの邦訳である(原題は「Extra Virginity」)。米国では一大センセーションを巻き起こし、規制強化の動きが生じたという。その主張を端的かつ少々乱暴にまとめれば、オリーブオイルの最高等級である「エキストラバージン」規格は法令執行・業界双方の堕落により、その品質が保証されていない、に尽きる。

  • エキストラバージンの嘘と真実
    エキストラバージンの嘘と真実
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スペインでは健康被害も

   偽装の手法は様々だ。エキストラバージン規格に満たないが純正のオリーブオイルではあるものを「エキストラバージン」と謳う。より安価な他の油を精製し、オリーブオイルと混ぜることで色・風味をつける。スペインでは1980年代に粗悪な油を精製して混合した商品で健康被害さえ出たという。中国の「下水油」ほどではないにせよ、それを嗤えない状況だ。

   著者は多くの関係者にインタビューを行う。オイル偽装で詐欺罪に問われ服役した実業家は自己弁護に終始するが、それなりの説得力だ。業界団体トップは、オイルの安定供給を力説する。捜査官は摘発の難しさから「オイル不正で得られる利益は麻薬取引に匹敵するが、リスクはまったくない」と嘆く。芥川龍之介の「藪の中」のように真実を見出すことは容易ではないが、著者の心証はクロであり、それは読者にも十分に伝わる。

【霞ヶ関官僚が読む本】現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で「本や資料をどう読むか」「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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