ヨーロッパは、東西にも広がりがありますが、南北の広がりもかなりなもので、南欧の国々は、北アフリカが望めるぐらい南にありますが、北欧の国々は、北極まで、国土がつながっています。今日は、北欧の作曲家の登場です。フィンランドの、ジャン・シベリウス、曲は、「ヴァイオリン協奏曲」をとりあげましょう。
「周辺国の作曲家たち」「国民楽派」
北欧の国というと、現代では、シンプルなデザインの家具とか、高福祉国家、環境先進国というような良いイメージがたくさんありますが、裏を返せば、人口が少ないからこそそういった特色をうちだせているわけで、人々が沢山集まることによって成長する文化などに関しては、決して、有利な国々ではありません。クラシック音楽が発達してきた、19世紀前半、北欧諸国は、気温も、文化についても、文字通り「お寒い状況」でした。
しかし、19世紀後半になると、伊・独・仏などの先進国からもたらされた音楽が上演されるようになり、北欧諸国、そして、同じように北の国土を持つロシアなどから、自国文化に根ざした音楽を作るべき、と考える作曲家が現れてきたのです。
北欧の作曲家たちは、距離の近さ、民族や文化のつながりなどの理由で、必然的に、音楽先進国の中でも、ドイツに留学する人が、多くなりました。1865年フィンランドに生まれたシベリウスも、ベルリンに留学しています。これらの、「周辺国の作曲家たち」は、出身国の文化や民族に誇りを持ち、その民族音楽などを作曲の要素に取り入れたため、「国民楽派」とまとめて呼ばれることがあります。
ヴァイオリニストには覚悟のいる大曲
ドイツの留学の影響などで、シベリウスは、初期は、非常に力強く、構造のしっかりしたオーケストラ作品を書いてゆきます。特に、劇音楽や、交響詩といった、物語を内包する音楽で、祖国フィンランドの題材を、たくさん取り上げました。同時に、彼は20世紀に入ってすぐ、30代の後半で、このヴァイオリン協奏曲を書き上げます。実は、彼は若かりし頃、ヴァイオリニストを目指して、名門ウィーン・フィルのオーディションを受けたりしていたのです。一説によると、極度のあがり症のために、演奏家は断念した、といわれています。しかし、もともと修行した楽器のヴァイオリンのために、1曲だけですが、素晴らしい協奏曲を残したのです。技術的に難易度が高く、さらに、改訂されたとはいえ、30分かかる大曲で、ヴァイオリニストにとっては、覚悟のいる曲ですが、内容は、まさに北欧フィンランドの誇り、というべきシベリウスの音楽が詰まっています。
1楽章の冒頭では、管弦楽のサウンドの上に、ソロ・ヴァイオリンがささやくように旋律を奏でますが、その部分を指して、シベリウスは、「極寒の澄みきった北の空を、悠然と飛ぶ鷲のように」と言い残しています。厳しい冬に負けない、北の民族の力強さと、北国の寒くも美しい風景が同時に味わえる、クラシックを代表する、ヴァイオリン協奏曲です。
本田聖嗣