ヴァイオリニストには覚悟のいる大曲
ドイツの留学の影響などで、シベリウスは、初期は、非常に力強く、構造のしっかりしたオーケストラ作品を書いてゆきます。特に、劇音楽や、交響詩といった、物語を内包する音楽で、祖国フィンランドの題材を、たくさん取り上げました。同時に、彼は20世紀に入ってすぐ、30代の後半で、このヴァイオリン協奏曲を書き上げます。実は、彼は若かりし頃、ヴァイオリニストを目指して、名門ウィーン・フィルのオーディションを受けたりしていたのです。一説によると、極度のあがり症のために、演奏家は断念した、といわれています。しかし、もともと修行した楽器のヴァイオリンのために、1曲だけですが、素晴らしい協奏曲を残したのです。技術的に難易度が高く、さらに、改訂されたとはいえ、30分かかる大曲で、ヴァイオリニストにとっては、覚悟のいる曲ですが、内容は、まさに北欧フィンランドの誇り、というべきシベリウスの音楽が詰まっています。
1楽章の冒頭では、管弦楽のサウンドの上に、ソロ・ヴァイオリンがささやくように旋律を奏でますが、その部分を指して、シベリウスは、「極寒の澄みきった北の空を、悠然と飛ぶ鷲のように」と言い残しています。厳しい冬に負けない、北の民族の力強さと、北国の寒くも美しい風景が同時に味わえる、クラシックを代表する、ヴァイオリン協奏曲です。
本田聖嗣