既存の制度やこれに依拠する事業者への警笛
タイトルは「反福祉論」、見出しは「福祉制度に替わるセーフティーネット」、本書は一見、現行制度を全面否定するかのごとく見えるが、真の意図は違う。
「本書の『反福祉論』とは、(中略)福祉の概念や実態をもう少し広くとることで、福祉の内実を豊穣にすることに狙いがある。すなわち、人々の福祉的行為をこれまでの福祉『制度』や福祉『施設』に閉じ込められたものに固定せずに見てみることで、福祉の持つ本来の意味について考えてみようというのである」
「社会福祉の実践というものは、有名無名を問わず、あるいは団体・組織等の有無を問わず、そのような実践活動が積み重ねられて、大きな力となって、行政がそのことの重要性を認識して、制度・政策に反映されるようになってきたのである。言葉を換えるならば、既存の公的な福祉制度の枠を超える戦い(実践活動)を行い、その戦いによって既存の公的な福祉制度の枠を広げてきたのである」
つまり、制度化された福祉と制度化されていない福祉は、相反するものではなく、連続的なものなのだ。
しかし、本書は、既存の制度やこれに基づく福祉サービスが決して、本来期待された役割を果たしていないことを批判している。それは、現在の福祉事業が制度化される過程で、自主的な活動から、行政から委託を受けた「仕事」となり、決まった枠組みの中で、決まったとおりにこなすことを求められているためでもある。
現在、福祉の中心的な担い手である社会福祉法人の「内部留保」問題が社会的な関心を集めている。現行制度の下で各法人に蓄えられた資産が日本全体で2兆円にも上っているという指摘である。そこには、今日、社会福祉法人は単に行政から委託を受けた仕事だけをする「下請け機関」に過ぎないのかという批判とともに、「福祉」とは一体何なのかという根源的な問いかけがある。本書はこうした問いに対し、一つの示唆を与えてくれている。
厚生労働省(課長級)JOJO