11月は「酉の市」のシーズンです。「三の酉まである年は、火事が多い...」という言い伝えがありますが、今年は、二の酉までです。言い伝えは、暖を直火でとっていた遙か昔の香りがします。めっきり日が短くなって夜が早いこの季節、酉の市の神社や夜店の明かりに、私はいつも魅力を感じて、吸い寄せられてしまいます。
酉の市、の「酉」の字は、生物の鳥・鶏より、むしろ「酒」と関連があり、酒を貯蔵する瓶や器を表しているそうです。十二支の10番目だったこの字に、後から、一般の人たちにわかりやすいように、動物の「鳥」をあてたところから、無理矢理「トリ」と読んでいるようです。また、最近の研究では、絶滅したと言われている恐竜の、「正統な子孫」が鳥だ、と特に骨格比較によって推測されているようです。日常的にチキンを食べる我々も、「トリ」については、まだまだ知らないことがたくさんありありそうです。
鳴き声、生息環境までもピアノソロで表現
今日は、鳥の声にトリつかれた、といってもよいフランスの20世紀を代表する作曲家、オリヴィエ・メシアンのピアノ曲、「鳥のカタログ」をお薦めします。1908年生まれのメシアンは、敬虔なクリスチャンであり、教会のオルガニスト、ピアニスト、教育家でもあり、門下から、後のフランスを代表する音楽家達を輩出してもいます。
そんなメシアンは、いつも鳥の鳴き声に興味を持っていました。鳥の声とそれを取り巻く風景に、魅せられ、たくさんの曲を書いています。親日家でもあったので、日本での鳥の観察からヒントを得た曲なども作曲していますが、私がお薦めするのは、ピアノの大曲、「鳥のカタログ」です。全部で7巻にわかれ、13曲からなる、つまり「13羽の鳥」をモチーフにした作品で、全て演奏すると3時間30分にもなります。鳥そのものの鳴き声はもちろん、鳥が生息している環境までも、ピアノソロの音で表現され、独特のメシアンワールドが展開します。メシアンは1992年に亡くなったのですが、その年にフランスに留学した私は、彼の一周忌のコンサートで、この中の「クロウタドリ」を演奏したのを、思い出します。
トリずくめの音楽家
私たちにとって、鳥は、身近な隣人であり、鶏や鴨は同時に身近な食材でもあるわけですが、都市に住んでいると、鳥の鳴き声に耳を傾けて聴く、という機会は少ないものです。メシアンによって描写された「鳥の世界」を、彼の音楽を通して感じてみる、というのも、「酉の季節」に良いのではないでしょうか。
ちなみに、メシアンが、20代から亡くなるまで務めたポストが、パリ市内の、「三位一体教会」の正オルガニストでした。
カトリック信仰の重要な要素である「三位一体」のことを、フランス語では、「トリニテ」と発音します。実に、トリを愛したメシアンらしい名前だと思いませんか?
本田聖嗣