マラソンには「ドラマ」がある
5章から成る本書では、各章で、それぞれに複雑な事情を抱えた侍達が遠足に参加する。
①憧れの姫君をめぐって競う2人の若侍達、②脱藩を企て謹慎中の生活に絶望し、昔の女との新生活を夢見る剣豪、③素性を隠し続けることに疲れた幕府の隠密、④貧乏に耐えかねて八百長の賭けに加担しようとする足軽、そして、⑤隠退した頑固侍と父を失った元服前の少年――。それぞれが30キロもの山道を走ることを通じて、新しい何かを掴んでいく。
本書は、ストーリー展開の早い、エンターテイメント小説であり、率直に言って「深み」がある内容とは言えないが、随所で、人はなぜマラソンに「ハマる」のかを解き明かしてくれる。マラソンは人生を教えてくれるものなのだ。
「自然に構えてこそ本来の力を出せる。心を乱さず、己の間合いを保て。長き道を行くには十分な心構えが必要じゃ」
「速さを変えぬほうが長く走れるものよ。もくもくと足を出しておれば、知らずに遠くまで行けるものじゃ」
「走るとやはり気持ちがよい。身分も貧乏も忘れられる」
「何やら爽やかな気持ちでござるな」