日本の秋シーズンに、秋晴れと交互に、やってくるのが台風です。今年は、例年と違い、夏前の早い時期から台風が日本列島に接近していたような印象がありますし、台風シーズンに入ってからも、列島に接近する速度が遅かったりして、結果的にたくさんの雨をもたらし、各地に被害を与えています。ただ、これは日本だけのことでは無いようで、欧州でも、北米でも、今年は「例年と違って勢力が強くたくさんの雨を降らす」嵐が各地に被害をもたらしている、というニュースが数多く報道されています。2014年の、特に、北半球の台風の勢力や発生数が異例かどうかは、もう少し時間がたたないとわかりませんが、気候が変わっている、という人々の実感は、たぶん、当たっているのではないかと思います。
「シェイクスピアのテンペストを読め」に由来...
「テンペスト」と呼ばれる、ベートーヴェンのピアノ・ソナタがあります。ベートーヴェンという作曲家は、その作風も、肖像画における髪型も(!)「嵐」を思わせるものが、多いのですが、この曲の題名は、彼のイメージとは関係ありません。また、ベートーヴェンは、自らの作品に題名をつけることを嫌っていて、かの「運命交響曲」も、最初のモチーフをして、「運命はこのように扉を叩くのだ」といった発言から、人々が、勝手に呼ぶようになっただけです。
このピアノ・ソナタ、正式な呼称は、作品21の2、ですが、テンペスト、という通称で呼ばれています。ベートーヴェンの頭の中にあったのは、文豪シェイクスピアの戯曲、「テンペスト」なのです。弟子が、このソナタを理解するには? と質問したのに対して、「シェイクスピアのテンペストを読みたまえ」...とベートーヴェン先生がおっしゃったから、という話が伝わっていますが、近年の研究では、この逸話は弟子の作り話、ともいわれています。
心の中は常に「荒れ狂う嵐」状態だったか
ともあれ、嵐を思わせるようなピアノの曲であることは間違いなく、中期のピアノ・ソナタの傑作となっています。彼はこの時期、作曲家としては順調に地歩を築いていたのですが、一方で、難聴に悩まされていました。結局、耳が聞こえないにもかかわらず、素晴らしい作品を残したことは、後世の我々は皆知っていますが、彼の心の中は、常に、「荒れ狂う嵐」状態だったのではないか、と想像すると、たとえ、シェイクスピアの作品や現実の嵐を彼が想定していなかったとしても、やっぱり、「テンペスト」という通称がしっくりくるような気がします。ベートーヴェンは、古典派、といわれる時代の作曲家ですが、彼のあとにつづく、ロマン派の時代のモチーフ、「疾風怒濤」を先取りしている、ともいえそうです。