「難病カルテ―患者たちの今―」(蒔田備憲著、生活書院)
難病は「特別な人」がなるわけではない。「悪いことをした罰」がもたらしたわけでもない。誰しも明日、発症する可能性がある(本書「あとがき」)。
しかし、難病のこと、難病患者やその家族の生活のことはあまり知られていない。多くの人々は、「24時間テレビ」や「ヒューマン・ドラマ」の世界のことだと思っている。
本書は、現時点での医学では「治らない」難病を抱えている患者やその家族の日常を描いたルポルタージュ。毎日新聞佐賀県版の連載に、難病をめぐる制度・政策を分かりやすく解説したコラムを加えて、書籍化されたものである。
患者の生き方・思いは、多様
本書では、47種の疾患、3歳から78歳まで71人の難病患者や家族の「日常」が描かれている。
一口に難病といっても、ALS、パーキンソン病、潰瘍性大腸炎など病名くらいは耳にしたことがある病気から、進行性骨化性線維異形成症(FOP)、ウェゲナー肉芽腫症など病名からは想像もつかないような病気まで様々である。
病気も多様だが、当然ながら、患者の生き方も実に多様である(決して、テレビドラマに出てくるようなケースばかりではない)。本書では、筆者が「まえがき」で語っているように、筆者個人の感情や考えは極力省き、淡々とした記述を心がけたゆえに、そのリアリティが読む者に伝わってくる。
「生きていてよかった、と思える人生にしたいから、自分に負けないよう頑張りたいんです」
「障害があって外に出られずにいる人も多いはず。でもそこに、私が訪問して自分の経験を伝えたら、社会との接点を持つきっかけになるかもしれない。引きこもらず、明るい日差しを感じてほしいんです。私の姿を見せることで、心のカーテンを開けてほしいんです」
などと、病気やそこから生じる大きな困難と懸命に闘っている人。
「健康な人は、それだけでは物足りなくて、お金、服、欲が出てくるかもしれない。でも私にとって、毎日、ただ普通の生活があれば、オッケーなんですよ」
「家族のためにご飯を作って、帰りを待っている。それだけでも十分かなって。前みたいに何でもかんでもできないけど、今の状況を保てればベストだって」
などと、苛酷な状況で、将来の見通しは厳しい中でも、今の状況を淡々と受け入れ、日々の生活の中に喜びを見出している人。
「社会にも役立ってなくて、もうどがんなってもよか、と思ったこともある。でも、何かしたかねえ。でも何がしたかのか、自分でも分からんとです」と歯がゆさを抱えて暮らしている人。
「はっきり言って親がいないと生きていけない。それもまあいっかって。親が生きているうちはほそぼそ過ごして、親が死んだら一緒に死のうかな」と、恋愛も結婚も望みはするが「俺はいいや」と卑屈に考え、前向きになることができない若者など、それぞれが様々な思いを抱いて生活している。