霞ヶ関官僚が読む本
医療少年院に異界見た…赤ひげならぬ熱血院長

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「最後の砦」の担い手に敬意

   本書では、著者の矯正との縁や、自らが受けた教育と現代教育の差異も語られる。自宅リフォームの顛末から我が国の現場のすり合わせの巧みさを称賛し、医療少年院の教官らの同様な職人芸での活躍を頼もしく振り返りもする。半生記の如く私事をも語る姿勢に、著者の思いがにじむ。「私は『教官のような医官』と言われ続けたことを名誉に思っている」の言葉は、赤ひげならぬ熱血医官の証と言えよう。

   必然的に直面する被害者感情とも、著者は真摯に向き合う。但し応報的な厳罰主義は拒否し、加害少年の立ち直りの可能性を突き詰めていくべきとする。身内が被害者ならと想像する評者には戸惑いもあるが、自らの信念を述べる著者の勇気と熱意を称賛したい。著者は戸惑ういとまを許されぬ現場で加害少年と向き合い続け、その社会復帰を使命として生きてきたのである。

   少年が親を含む周囲の人間全てを敵と見定めていたとき、「この人だけは自分を信じてくれる」と思える人に出会えた。それが少年院の医官や教官であっても、その人の存在ゆえに、社会復帰後の冷たい目線にも負けず頑張れる少年少女があるならば、「異界」の絶望の中にも望みはある。著者は言う。「社会にある若者と少年院に収容されている若者とを、私は基本的に区別していない。誰が初めから非行をしようとして生まれてくるだろう。同じような困難の中であがいていると捉えている。…悲観ばかりはしていない。たっぷりと暗みを見て来たからである」と。最後に掲げられた今の若者たちへのメッセージは、働くことや夢を持つことの意味を諭しており、厳しくも温かい。

   医療少年院という、教育の文字通り最後の砦に、著者のような人間性と信念の人を得たことは、社会全体にとっての幸せであったと評者は信じる。今も矯正に従事する全ての方々に敬意を表しつつ、そうした第一線の方々に恥ずかしくない仕事をしようと改めて心に期する次第である。

酔漢(経済官庁 Ⅰ種)

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。
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