ニュースで「イスラム」の文字を見ない日はない。自爆テロや誘拐といった恐ろしい話題の一方で、16億の人口を抱え、平均年齢20歳というパワフルな市場としての注目も高まっている。イスラムの「普通の人」に触れる書籍を見つけた。
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嫁に行ったらこんなとこだった
『アラブからこんにちは』
イスラム世界といっても、西はモロッコから東はインドネシアまで広大な地域にわたる。ほぼ中央、アラビア半島に位置するUAE(アラブ首長国連邦)は、急速に経済発展した裕福な国だ。20余年前にアラブ人と結婚し、三男二女の母となった日本人女性がいる。彼女が謎に包まれた中東暮らしを語った本が、国書刊行会から出ている『アラブからこんにちは』(著・ハムダなおこ、1728円)だ。あまりの暑さにシリコンは溶け、水道水では大やけど(!)厳しい自然環境の下で暮らす主婦目線のエピソードは、学者による中東研究とはひと味違う。ラマダン時期の過ごし方など、イスラム教徒の生活パターンにも触れる。読み進めると、この地域の人々は戒律でがんじがらめというより、互いの立場を察しながら暮らしている、といった印象が強くなる。現地に深く根差した日本人は少ない。本書は、結婚や子育てを通じて普通の人たちを記録した稀少な資料でもある。
戒律の解釈は一人ひとり違うのです
『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』
東京オリンピック開催が決定したころから、「ハラル」という言葉への注目が集まりだした。ハラルは戒律に違反していないことを意味し、いくつかの機関が国内の食品を審査して、「イスラム教徒が口にできる」と認証を行っている。認証が得られれば、16億人に向けて自社商品を売り込める!と期待する事業主は多いはずだ。だが、イスラム学者の中田考はこのハラル認証ビジネスに疑問を呈す。目の前の食品を食べてよいかどうかは、一部の機関が決めるのではなく、コーランなどを基に個人が判断するもの、というのだ。集英社の『一神教と国家 イスラーム、キリスト教、ユダヤ教』(著・内田樹、中田考、821円)は、ハラルを含むイスラムの根本的な思考について、思想家の内田樹とともにわかりやすく解説した本だ。西欧によって線引きされた国家制度の限界や、同じ神を崇拝するユダヤ教徒との衝突について、日本人にはなかなか理解しがたいトピックについても熱く語る。若者に自宅を明け渡し、食事はいただきもので賄う、イスラムに則った中田のライフスタイルにも注目だ。
女性の後進性の象徴? いえ、自らすすんでかぶります
『神のためにまとうヴェール 現代エジプトの女性とイスラーム』
フランスで公共の場で顔を覆うベールの使用を禁止する法律が2011年に発効され、物議をかもした。これは実質上、イスラム教徒の女性が髪や肌の露出を控えるために被る「ヒジャブ」を禁じたものだ。欧米ではヒジャブは女性の社会進出を拒む悪習としてとらえられてきた経緯がある。だが、20世紀後半から、エジプトでは女性たちが自ら進んでヒジャブを被る、新たなムーブメントが起きた。中央公論新社の『神のためにまとうヴェール 現代エジプトの女性とイスラーム』(著・後藤絵美、3996円)はこの現象について読み解く一冊。エジプトやインドネシアなどでは、人気ブロガーがデザイン性のあるヒジャブや新しい巻き方を紹介している。ファッションとして、ヒジャブを積極的に楽しむ女性の姿に、伝統や宗教を受け止めながら新たなスタイルを生み出すたくましさを感じる。