霞ヶ関官僚が読む本
治る見込みが無くなったとき、患者はどうなる、医師はどうする

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医師の気持ち――治らないものは治らない、害のある治療はしたくない――

「先生は、私に死ねと言うんですか」
「治療法がないというのは、私にすれば、死ねと言われたも同然なんですよ!」

   患者に罵倒され、そのまま診察室を飛び出していかれた35歳の外科医にも、葛藤が残る。

「副作用で命を縮めるより、残された時間を悔いのないように使ったほうがいいから、患者のためを思って告げているのに」
「医師として患者には誠実でありたいと思っているんだ。治らないものは治らないというべきだし、害のある治療はしたくない。夢のようなことを言っても、病気は必ず悪くなる」
「医師は懸命に治療するが、病気には勝てない。そのうち、医師は気持ちが萎え、達観するようになる。そうでないと神経がもたない」
「虚しい希望を捨てられない人のために、副作用のある治療をやれって言うのか。明らかに命を縮めるとわかっているのに」

   妻からは、「考えてもどうにもなんないこともあるんだから」と繰り返し、指摘されても、この若き医師は、どうしても、葛藤から抜け出すことができないでいる。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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