221句に寅次郎の姿がちらほら
風天 渥美清のうた
映画を見ていると、寅さんはそのまま渥美清だったのではないか、そんな錯覚にとらわれる。渥美は役のイメージを壊さないよう、私生活を徹底して公にしなかった。だが、隠されると知りたくなるのが、人間の心理。俳優のミステリアスな頭の中がちょっと垣間見えるかもしれない、そんな期待を抱かせるのが、文藝春秋の『風天 渥美清のうた』(著・森英介、648円)だ。元毎日新聞記者が、渥美が生前に詠んだ221句の作品を発掘し、紹介している。専門誌で高浜虚子の句に並び紹介された「お遍路が一列に行く虹の中」という代表句はもちろん美しいが、「股ぐらに巻き込む布団眠れぬ夜」という何とも人間臭い句も残す。半世紀以上、一つの役を演じ続けた男の句、やっぱり寅さんの姿が脳裏に浮かぶ。俳号は「風天」だ。