ひっそりとして、観光ブームとはおよそ無縁な土地に深い味がある。言いつくされた考え方だが、実際にはどうなのか。『ニッポン周遊記』(池内紀著、青土社)が、独特の視点で各地の隠れた魅力を掘り起こす。
北海道から沖縄まで30の土地に塗り込められた文化と、垣間見える歴史や人々の表情。紀行文に定評のある著者が地域観察のコツを伝授する。「いちど行ってみたいな」と思える街が見つかりそうな気にさせる一冊だ。【2014年7月27日(日)の各紙からⅡ】
「図書館があるかどうか」
「旅名人の名観察、名解説」というのは出版社サイドのPR文句だが、スケジュールすべてお任せのツアーやガイドブックとは違う、旅本来の自由なブラブラ感が読ませる。
訪問先を選ぶ基準は「経済的に自立」「歴史など由緒あり」「個性がありそう」ということだそうだ。どこまでそう言えるのかとうるさい疑問にこだわりすぎずに探せば、これが結構あるらしいのだ。
開拓者精神が根づく北海道の森町、「支藩」ゆえの自立志向が伝わる青森県黒石市、利根川の河口で多彩な生活の場となった千葉県銚子市、秘境に独特の文化を育んだ福島県桧枝岐村など。大寺院の境内にある三重県津市の一身田寺内町はユニーク。長野県須坂市や福島県棚倉町では歴史の教訓に学ぶ。沖縄県金武町で民衆運動の足跡をたどる。「町の見つけ方・歩き方・作り方」のサブタイトル通り、各地の特色を丁ていねいに見つめている。
おもしろいのは、見分ける方法の一つとして「図書館があるかどうか」だとあることだ。貸本屋代わりの図書館ならちょっとした街にはよくあるが、問題はそこで歴史や文化がどこまで尊重されているかだろう。そのへんを著者はしっかり吟味している。
あとは、自分の視点で訪ね歩けば
もちろん、本にある土地は、著者が魅力の一端を紹介したにすぎない。いかに旅名人でも触れていない事柄も、訪れていない土地もまだまだあるはずだ。あとは、読者それぞれが著者の観察を参考に自分の視点で訪ね歩けばいい。「周遊とは、周到に遊ぶことでもあるんだな」と、読売新聞の評者・平松洋子さんはこの本で教わったそうだ。
親と子の立ち位置について考えた『親が出来るのは「ほんの少しばかり」のこと』(山田太一著、PHP新書)が、朝日新聞新書欄に無署名で小さく。
家族ドラマの脚本・演出で知られる著者が20年前に問いかけた一冊を補加筆した。今の家族関係に通じる、あるいはしっかり見越した一面が、新鮮に響く。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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