後半戦に入ったプロ野球では、日本ハムの大谷翔平投手がオールスター戦で日本最速タイの球速162キロを出して話題になった。『「あぶさん」になった男 酒豪の強打者・永渕洋三伝』(澤宮優著、KADOKAWA)は、投打両面で活躍した「二刀流」の先輩で、今の球界にはいなくなった型破りの豪傑を描くスポーツノンフィクションだ。
人気マンガ「あぶさん」のモデルといわれる。投げて、打って、走って、飲んで。二日酔いでもやることはやる一方で、外野を守りながら嘔吐したとの伝説も。酔いどれの剣豪を思わす「酒仙の首位打者」は、実際のプレーを知らない世代にまで、なぜか懐かしい郷愁を感じさせる。はるかな昭和の匂いに人が心惹かれるように。【2014年7月20日(日)の各紙からⅡ】
打席に立つと震えが止まる「酒(主)力打者」
永渕洋三は佐賀県内でも有数の進学校からエースとして甲子園に出場、社会人野球の東芝を経て1967年に当時の近鉄バッファローズの入団テストを受けた。形式的にはドラフト2位で指名され、その契約金で飲み屋のつけを払ったという。
投手登録だったが、デビューは代打で、初球を初打席初本塁打。そのまま投手として登板した。この年は三原脩監督に投手兼外野手として使われた。身長168センチと小柄ながら、のちに首位打者をとったこともある。ただし、それより有名だったのはその酒豪ぶりだ。
連日一升は軽く飲み、酒の匂いをプンプンさせながら試合に出て、打席に立つと震えが止まったという伝説がある。こういう話は大げさに伝わるものだが「酒(主)力打者」「酒仙永渕」と呼ばれ、一部のファンやマスコミ関係者から愛された。「なるべく練習せんようにしていました」などと、どこまで本気かわからない言葉も残している。
「努力する姿を一切見せないところにプロの凄(すご)みを感じさせる。同時に、当時の野球界のおおらかな空気も、この本の中に凝縮されている」と、東京新聞と中日新聞の評者・荻原魚雷さん。