霞ヶ関官僚が読む本
「財政」から語る社会保障改革 シビアな未来予想図、「現実解」をどう求めるか

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改革は避けられない どうやって合意を得るかが最大の課題

   しかし、日本の置かれた状況は、改革の痛みをおそれて、足をすくめていられるような甘いものではない。

   本書が提案するような改革案が適当かどうかは別として、高齢化に伴って必要となる財源を確保するために税や保険料を引き上げるとともに、中高所得者や資産保有者には、給付を我慢していただくことも避けて通れないであろう。その意味で、現行制度のように、高齢者であれば誰でも一律に給付するという仕組みを見直し、所得や資産水準に応じて給付を変えたり、あるいは資産課税の強化といった財源対策も必要となろう。

   問題は、その際、どうやって政治的な合意を得るかである。

   著者は、トップダウンで改革を断行するほかないという。

   「結局、小泉政権時代のように、①国民に対して分かりやすく首相自らが話して指示を取りつけた上で、②担当官庁を超えた『経済財政諮問会議』のような首相直轄の組織が、給付と負担の両面の財政全体を見渡したコーディネートを行い、③首相本人が改革に向けて強力なリーダーシップを発揮する」しかなく、「誰かが損をするような『痛みを伴う抜本改革案』を実現するには、トップダウンで物事を決め、現状を変えたくない官僚機構と業界団体をねじ伏せて事を進めるしか」ないとする。

   確かに、「郵政民営化」や「道路公団改革」など、改革に関する国民的な支持があり、古い体質の業界を相手にするような分野では、こうした攻撃的な戦略も有効であろう。しかし、社会保障分野の場合には、業界のみならず、実際の受益者たる国民が存在する。国民に更なる自己負担を求めたり、給付の削減を受け入れてもらわなくてはならないのだ。

   今後数十年にわたって続く少子高齢化を考えれば、社会保障改革は一回限りではない。また、政権が変わる度に、コロコロとその内容を変更できるものでもない。したがって、国民的な支持(納得)がない限り、時の政権がゴリ押ししても、改革は継続せず、混乱だけが残ることとなる。

   スウェーデンの年金改革をはじめ、負担増・給付減を実現した改革を見る限り、粘り強く国民合意を得ていくことが、その後の制度定着につながっている。

   回り道のように見えるかもしれないが、改革を実現するためには、まずは、①社会保障も財政も極めて危機的な状況にあり、改革が不可避であることについて、国民が認識を共有できる環境をつくることであり、その上で、②政治プロセスにおいて、むやみに「敵」「味方」を区別し「対立」を煽るのではなく、党派を超えて「合意」を得るというアプローチに徹することではないだろうか。

厚生労働省(課長級)JOJO

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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