経済学者が言う改革の実施で、本当に良い結果が期待できるのか
本書を読みながら、「財政」や「経済」の視点から社会保障を眺めれば、こう見えるのかもしれないなと思いつつも、正直なところ、違和感が拭えない。本当にこうした改革を実行すれば、著者が想定するような結果をもたらすのであろうか。
本書では、「自由価格」、「参入規制撤廃」など、市場メカニズムへの期待が語られているが、医療や介護分野において、自由化が進んでいる米国の実情を見る限り、むしろ高コストであり(米国の医療費の対GDP比は17.6%と日本の約1.9倍)、経済的弱者にとっては住み心地のよい国とは決していえない。確かに各論でみれば更なる自由化の余地もあるとは思うが、素朴な自由化論がもたらす弊害を甘くみてはならないだろう。
また、国際的にみると、高福祉とはいえない日本において、どこまでの給付削減・効率化が国民に受け入れられるのか、率直なところ自信が持てないという思いもある。
本書では、社会保障改革の数少ない成功例として、小泉政権時代に行われた毎年2200億円の社会保障予算の削減が取り上げられている。確かに、その当時は、一定の財政効果を上げたが、その後はむしろ、「医療崩壊」の元凶とされるなど、否定的に受け止められ、結果として、小泉改革は、負担増や給付削減へのトライをためらわせる象徴となっている。
こうした事情に思いを致すと、「財政の将来」と「後世代の負担」を憂う著者の思いは理解しつつも、その提案が「現実解」となるかについては疑問がある。