サッカーワールドカップの地ブラジルへの関心も高まっている。この国がGDP世界6位といわれて、意外に感じるか、当然と思うか。国土も発展の可能性もけた違いにでっかい新興国の素顔を『ブラジル 飛躍の軌跡』(堀坂浩太郎著、岩波書店)が紹介する。
女性大統領、軍政から民主化へ、債務国から債権国へ。「へえ、そうなのか」の知識と情報がいっぱいだ。一方でクローズアップされる開催反対デモや治安の悪化にはきれいごとばかりではない面も見えてくるのだが、この際、未知の社会をしっかりとらえるのには良い機会になるはずだ。【2014年6月8日(日)の各紙からⅡ】
魅力と可能性の一方で「生徒のイスも足りない」
もともと日本人一般が南米に抱くイメージは、広大な国土に軍政的な強権政治、インフレと経済の混乱、貧富の差といったところか。しかし、この半世紀あるいは四半世紀、ブラジルほど大きく変わった国はないという。本は、民主化への経緯を中心に政治経済の「劇的な変化」を追う。経済危機や貧困克服のための制度も解説し、ブラジル研究の「第一人者」が世界の表舞台に躍り出ようとする国のパワーを描き出そうとしている。
これまで繰り返されてきた「広大な国土」を強調するだけでなく、「文民統制」「社会統合」といった言葉も登場。ブラジルの魅力と可能性を存分に語る。ワールドカップ開幕の今に、ふさわしい内容だ。
だたし、バラ色に塗りたくるだけでいいかとの疑問はぬぐえない。反対デモは「この国が優先すべきはワールドカップではない」と声をそろえる。参加した教師が「学校では水がない、生徒がすわるイスも足りない」と語る。現実の問題もけた違いなのだ。