道路や橋や競技場、建設業者が人手不足の悲鳴を上げるほど、公共事業が花盛り・我が世の春だそうだ。あれ、「コンクリートから人へ」「予算の無駄遣いと談合をやめよう」の議論はどこへ行ったのか。一方で、すでにある施設は老朽化が深刻。トンネルや橋の崩落も依然、心配されている。なんともチグハグな現状を『インフラの呪縛』(山岡淳一郎著、ちくま新書)が浮き彫りにする。
東北の復興に、安倍政権が打ち出す「国土強靱化」構想、2020年東京五輪・パラリンピックとつづく今日明日、公共事業をどうするか考えておかないと、私たちの税金が知らないうちに食いつぶされてしまう。【2014年6月1日(日)の各紙からⅡ】
汚職と権益の温床が改革もされずに
国立競技場が解体されたのは、つい一週間ほど前だ。新競技場への建て替えを前に「寂しい」「懐かしい」の声ばかりが響いて、巨大事業につきものの政治とカネ、財政負担、環境問題といった批判はすっかり鳴りをひそめた。
政権が交代した途端の様変わり。建設業界と保守政界の関係にメスなんて、言っただけで変人扱いされかねないムードさえある。「しかし公共事業叩きにも、一理はあったはずではないか」と、東京新聞と中日新聞の評者・松原隆一郎さんは問いかける。
本は公共事業イコール善か悪かの二元論はとらない。多面的にインフラ整備の経緯と現状を考えようとしている。
経済発展の旗印で進められた道路、ダム、原発などの整備。そこに政財界の闇取引や談合が行われ、バブル崩壊後はその反動で「悪玉」論が噴出、政権が再び保守に代わると今度は「反動の反動」プラス東京五輪のお祭り騒ぎという迷走ぶりだ。
「自らの出身地に道路を引こうとする政治家」「ダムをめぐる政府と建設会社と電力の癒着」の指摘は的確。汚職と権益の温床が改革もされずに、また大手をふるい始めている。
50年前のインフラが更新期の「まったなし」
挙句に、いま「道路、橋、校舎の老朽化はまったなし」なのだ。この点で、両紙の書評は『朽ちるインフラ』(根本祐二著、日本経済新聞出版社)にも触れている。こちらは1964年の東京五輪から50年、当時整備されたインフラが更新時期を迎えた危機的現状に絞っての問題提起だ。
設備の更新・再生に今後50年間に毎年8兆円かかるという。安全を優先すれば新しい公共事業どころでは、本当はない。少ない予算で効果をあげた先進例も解説している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)