覚せい剤にのめりこんで捕まる有名人は少なくない。つい先日も、人気男性デュオ「CHAGE and ASKA」のASKAが覚せい剤所持容疑で逮捕された。
尿検査や毛髪からも反応が出て、自宅から覚せい剤や吸引器具も見つかった。面白半分に数回手を出したのではなく、どうやら常習的に使用していたらしい。週刊誌などでは10年以上前からクスリに手を染めていた、という報道も出ている。
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「何で薬物なんかやったの?」は意味がない
『人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション』
名誉もカネも手にした、日本を代表するアーチストがなぜ覚せい剤に溺れるのか。なぜ離れられないのか。だれでも感じる、そんな疑問に答えるヒントになるのが、星和書店の『人はなぜ依存症になるのか 自己治療としてのアディクション』(著・エドワード・J・カンツィアン、マーク・J・アルバニーズ、訳・松本俊彦、2592円)である。
どんな重症な薬物、アルコール中毒者でも一旦、使用を止めるのは簡単だ。ただ、その状態を続けることは極めて難しい。この点に注目して生まれたのが、本書の主題である「自己治療仮説」だ。
患者が依存症に陥るプロセスについて、こう説明する。
「決して快楽に溺れるためでも、自己破壊的衝動に突き動かされたためでもない。他に解決策が見当たらないなかで、耐えがたい苦悩や苦痛を一時的に抑え、緩和することを意図したゆえの行動なのである」
そして、緩和に役立つ物質を選択し、依存症に陥る、というのだ。「何で薬物なんかやったの?」と繰り返し詰問するのは意味がなく、患者の側に立った「暖かい見守り」こそが重要なことを強調している。
テレビ番組「アンビリバボー」でも紹介される
『ボブという名のストリート・キャット』
確かに、依存症の人たちがそこから抜け出すのは難しい。それでも何かのきっかけで立ち直ることもある。それが猫だった、というのが、辰巳出版の『ボブという名のストリート・キャット』(著・ジェームズ・ボーエン、訳・服部京子、1728円)だ。
英国では70万部のベストセラーになり、世界28カ国以上で翻訳出版された。日本でも2013年12月、フジテレビ系のテレビ番組、「アンビリバボー」で「奇跡のノラ猫の話」として紹介されたので、ご覧になった人も多いかもしれない。物語はこんなストーリーで展開する。
28歳の青年、ジェームズ・ボーエンは、売れないストリートミュージシャン。ロンドンでプロを志したものの失敗し、路上生活者に転落。その上、ヘロイン中毒からも抜けだせずにいた。人生の目的を失った彼の前に突然現れた、野良猫ボブ。運命的に出会い、支え合い、互いの人生を変えていく。
中毒からの「脱出」は地獄だ。薬の禁断症状が極限にまで達する中、ボブはずっと見守り続けてくれた。ジェームズは耐え抜き、ようやく薬物依存から抜け出した。
奇跡はそれだけではなかった。 2人の物語が「ボブという名のストリート・キャット」という本になり、大ヒットを記録したのだ。ジェームズとボブは、今もロンドンで一緒に暮らしているという。
麻薬の「光と影」の両面に迫る
『〈麻薬〉のすべて』
ではいったい、人類を悩ませる麻薬とはいったい何者なのだろうか。講談社現代新書の『〈麻薬〉のすべて』(著・船山信次、821円)は麻薬の基礎知識を学ぶ、絶好の「入門書」だ。
麻薬と人類との有史以前より続く深く悩ましく関係を、古今東西の逸話をまじえて紹介。依存症、弊害などの説明のほか、今後麻薬にどう向き合ったらいいのか、といった提言もされている。
また、麻薬の害を一方的に記述するだけでなく、モルヒネががんにおける痛みを緩和することを挙げ、その重要性も強調している。先進国の中でモルヒネを最も多く使用している米国と比較すると40分の1以下にとどまっている日本の現状に警鐘も鳴らしている。いわば、麻薬の「光と影」の両面について、正確に触れている良書といえる。