水俣病対処に心を砕き、自殺した官僚を描く
映画「そして父になる」で「人間」というものへの深い洞察をみせた映画監督・是枝裕和氏の処女作が、「雲は答えなかった 高級官僚 その生と死」(PHP文庫 2014年 初出1992年)と改題され復刊された。「官僚」の真実について知る最良の1冊であるこの本は、まさに村松氏による日本の官僚制分析が提示されたそのころの、水俣病問題への対処に心を砕いた、1人の良心的な、高位にあった官僚の、生い立ちから自死に至るまでの軌跡を丁寧に追ったものだ。この官僚の自殺は「公務災害」の認定を受けていることにさらりとふれているが、同じ「官僚」としては、「無制限・無限定」な仕事量が、彼の心身をむしばんだ面もあるように思われて、その読後感は苦いものではある。
経済官庁(課長級 出向中)AK