『亡国の安保政策』(柳澤協二著、岩波書店)が、安倍政権に正面から反対を唱える。書いたのが政府・自民と対立する陣営や古典的な平和主義者あるいは護憲論者ではなく、イラクへの自衛隊派遣を仕切った元防衛官僚で、第一次安倍政権の中枢にいた人物という点がミソだ。集団的自衛権や特定秘密保護法、日本版NSC(国家安全保障会議)設置などで突き進む安倍式「積極的平和主義」の実態を冷静に批判する。
大勢が一定の方向に進みかねないときほど、さまざまな立場からの発言が必要だ。「批判への反論」もふくめた本格的な議論の、たしかな資料になる。【2014年5月25日(日)の各紙からⅡ】
「積極的戦争主義」ではないのか
著者は防衛審議官や官房長などを務めた防衛問題のプロ。2004年から09年まで小泉、安倍、福田、麻生政権で安全保障・危機管理担当の内閣官房副長官補として官邸の安全保障戦略の実務を担ってきた。こんな専門家が沈黙することなく、集団的自衛権の行使に向けて突っ走る政策を現場感覚で検証しようというのだから、政府は煙たいだろう。
その著者は特定秘密保護法、日本版NSCを「かねてからその必要性に疑問を唱えていた」と明言する。イラクへの派遣も集団的自衛権に頼らず、個別的自衛権の範囲内で処理してきたし、できてきたことを語る証言でもある。
なぜいま集団的自衛権か。中国の脅威はたしかにあるのだが、これを読めば、それだけではにわかにうなずけなくなる。いったん行使を認めれば、対中国だけでは終わらないし、安倍さん以後の政権に解釈拡大の余地を与えかねない。「積極的平和主義」は「積極的戦争主義」ではないのか、では中国の横暴はどうする、誰か答えてくれと言いたくなる。
両極論だけでなく広く議論を
「貪欲な中国から自分を守るためだ」「戦争を好むのか」の両極論は、どちらにせよ分かりやすいが、実際の防衛論議にはきめ細かい検証がもっと深く、具体的になされなければ。今のムードや内閣支持率だけで安易に突進されては、あまりに危ない。
「今後の国民的議論のために、必読の一冊である」と、朝日新聞の評者・杉田敦さん。こういう本自体は歓迎できる。与党内ばかりでなく、議論を広く進めよう。
安全保障に関してはもちろん、別の立場からの本もいっぱいある。『日本人が知らない安全保障学』(潮匡人著、中公新書クラレ)も元自衛官が書いた。こちらは武力の必要を力説。自民党の石破幹事長が「平和憲法では日本を守れない」と、本の帯に登場し薦めている。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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