患者や家族の「心配事」は、医療関係者にとって思いもよらない場合も…
本書では、多くの医療関係者が自らの患者・家族体験を通して、患者・家族は医療者が思いもよらなかったことを(真剣に)心配していることに気が付いたと語っている。
ある看護師の父が、心臓の弁をブタの生体弁に交換する手術を受けることになり、母とともに、主治医から事前説明を聞くこととなった。最後に主治医から「何かお聞きになりたいことはありませんか」と問われて、母が間髪入れずに尋ねた質問は、
「そのブタは、元気なブタだったのですか」
予想外の質問に驚いたそうだが、この短い言葉にこそ家族として一番知りたいことが凝集されていると思ったという。素晴らしかったのは、この切実な家族の質問に対する主治医の誠実な回答であった。
「僕が直接見たわけではありませんが、元気なブタが選ばれていますから、大丈夫ですよ」
こうした笑い話のようなやりとりばかりではない。切羽詰まった患者・家族は、医療関係者からみれば取るに足らない事柄について、真剣に悩んでいる。こんな些細なことを忙しいスタッフに尋ねたら、迷惑だろうか、嫌われてしまうのではないかなど、悶々としている。
「何でも遠慮なく聞いてください」という一言を待っているのだ。