徹頭徹尾常識的な思考に立脚
世の中に政治家や官僚をたたく評論は多い。しかし、本書のように報道や日本国民を真正面から叱るものは少ない。今の日本で政府を批判するのにさほどの勇気は要らないが、報道と国民を相手にここまでの辛口の論陣を張るには並々ならぬ覚悟が要る。著者の筆には当たるを幸い撫で斬りの感もあるし、思いの熱さに論旨が追いにくい箇所もある。しかし著者の悲憤慷慨が、筆者のように永年霞が関に棲息して十分面の皮が厚くなった者にまで、単なる怪気炎でなく渾身の力を込めた警鐘と感ぜられるのは、上述の覚悟に加えて、その悲憤慷慨が徹頭徹尾常識的な思考に立脚するからであり、またその常識的な思考が国際的な視座に立つものだからであろう。いずれにせよ、熱い本である。本書を、血を吐くような憂国の書と言えば、言い過ぎであろうか。
(山科翠 経済官庁 Ⅰ種)