ユニークな視点にハッとさせられる本がある。『人間は料理をする』(マイケル・ポーラン著、NTT出版)は、食を通通して見つめた人間とその文明論だ。さまざまな動植物を火・水・空気・土を使って料理してきたおかげで私たちは進化できたのだと考える米国のフードジャーナリストが、加工食品蔓延の現代食生活が意味するものを問いかける。【2014年5月4日(日)の各紙からⅠ】
体内約500種3兆の細菌で健康維持
上下2巻にわたる大作で、世界を回って体験した調理場修業のアレコレも満載だが、それよりユニークなのは現代食生活の問題をついている点だろう。
「料理は人類最大の発明」とは、これまでも言われたことだ。人間は料理によって物を消化しやすくなり、栄養を取り入れて、そのエネルギーが文化を生んだという考え方。その料理を著者は火・水・空気・土(土器)との関わりに分けて考え始める。
やがて、人と微生物の深い関係にいきつく。
いま生きる私たち一人一人の個体は、人間だけのものではないと著者は指摘する。私たちと一緒に、体内には主に腸に約500種3兆の細菌がいて、宿主である人間を長生きさせようと働いている。おかげで腸壁上皮が守られ、人は健康を維持できるという。人は一生を通じて腸内を通過させる食物の多くを、それら腸内細菌によって処理してもらっているのだ。
人間だけのために特化した食事では
細菌の栄養源は食物繊維を発酵させた有機酸。ところが、現代的な脂肪分と精製炭水化物の多い加工食品中心の食事では、これが不足する。人はエネルギーを得られても、細菌は飢える。体内に共生する3兆の生物のためではなく、たった一つの生物・人間だけのために特化されたのが、現代の典型的な食事なのだという。
極論にも見えるが、無茶な空論ではない。むしろ科学的に考えての警鐘に、この本の価値がある。今では加工食品の害も、食物繊維の重要性も、多方面から指摘されている。著者の危惧がそっくりあてはまるとは言い切れないだろうが、では現状が十分かと問われると、著者の問題提起はがぜん現実味をおびてくる。要は、これからの人間の行動次第でどちらにも転ぶ、危なっかしい境目に私たちはいるということか。
書評は日経新聞に。「料理の歴史・経済・科学など多彩な要素が詰め込まれた味わい深い物語」と評者の内田麻里香さん。料理が人をつなげる面も強調し、多角的に紹介している。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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