【書評ウォッチ】自由が丘を「傘の街」に 元人気スイーツ店経営者、不惑の挑戦

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   すごい人がいるなーと感心させられることが、読書面の著者紹介欄にはある。かつては高値でそうは買えなかった傘を今や安くは1本500円にまで下げてしまった林秀信さんも、その一人。これ一筋かと思えば、前身は東京・自由が丘で大人気のスイーツ店。『晴れの日に、傘を売る。』(阪急コミュニケーションズ)には、ほとんど考えられない変身ぶりが詰め込まれている。

   で、「傘界の黒澤明」とも。従業員36人のメーカーが年間1870万本を売り、全国シェアは17%。日本中の10本に2本近くはここの製品らしい。めざすは自由が丘を、今度は「傘の街に」だそうだ。【2014年4月27日(日)の各紙からⅠ】

あっさり転進したときは40歳

『晴れの日に、傘を売る。』(阪急コミュニケーションズ)
『晴れの日に、傘を売る。』(阪急コミュニケーションズ)

   経営哲学もさることながら面白いのは経歴だ。長崎県から上京して東洋医学の治療院や焼き鳥屋経営をへて自由が丘にスイーツ店を開く。そこで1979年、「サンドケーキ」というメニューを考え出した。

   サンドイッチとケーキの合体版で、黄金色に焼き上げた生地2枚に、アイスクリーム、マロン、バナナ、レーズンのほかツナやコンビーフ、ポテトサラダ、ベーコン、ウインナーと様々な具材をはさんだ。ナイフとフォークを使って食べるのが、たちまち若者たちにうけた。旅行者も全国から。店前で記念撮影する高校生もいたという。

   今日のスイーツブームに通じ、自由が丘のイメージ作りにも貢献した。なのに、この人は店をあっさり閉めて、やり出したのが傘作りだ。もう40歳になっていた。

「男はあくせく仕事する」の生き方論も

   実は、幼い頃に番傘の美しさに魅せられたことが忘れられなかったのだそうだ。しかし、それで異業種の会社を中年から始めて成功するものか? 「男は仕事」「あくせくするのが勲章」と読売新聞の著者紹介欄で語るあたり、この本には経営書というより人生論の側面が。それも「のんびりマイペース」「脱都会・自然と気楽に」式の風潮とは対極にある生き方を自然体でこなしてきた趣がただよう。

   そうして作り出した製品は、単純なビニール傘とはちがう。品によって最大100色のカラフルさ。「waterfront」「SHU'S」などのブランドも。薬店や書店でも売られる。いつでも手軽に好きなのを買えるのは、1年を通じての大量生産と540万本の大量在庫という支えを実現しているから。

   「晴れの日にも客をひきつける傘を」ということか。やるなあ。人生の達人に驚かされる。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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