最近の若い人は知っているだろうか。ブランドのバッグや小物、スイーツ、おしゃれな店や多彩なグッズ。これらを楽しむ習慣を演出し、根づかせた雑誌がある。その溌溂とした創刊期を『銀座Hanako物語』(椎根和著、紀伊國屋書店)が紹介する。「キャリアとケッコンだけじゃ、いや」のキャッチフレーズで1988年6月に創刊、読者の基準は首都圏の27歳女性だった。雑誌と時代。どちらがどちらを作ったのか。そこでとらえられた女性の感性は、完全に今へと通じている。【2014年4月24日(日)の各紙からⅡ】
ブランド、食材、ボジョレー・ヌーボーも月島もんじゃも
編集スタッフのほとんども若い女性。そこの5年半を創刊編集長だった著者が語る。バブル全盛期の時代証言だが、あの頃はよかった式の懐古談とは違う。現代のごく普通の女性ファッションや好き嫌い、さらには生き方自体に限りなく近い。一つの雑誌がその原型を作った観がある。
「Hanako現象」は実際、すごかった。海外ブランド品や高級食材を特集すれば売り場に行列ができた。渋谷や横浜などを魅力の街としてガイドすると発売日の夕方から雑誌片手の読者が路地にもあふれた。ボジョレー・ヌーボーもティラミスも月島のもんじゃ焼きも海外旅行の買い物ブームも、みんなこの雑誌から起こった。
創刊の2年前に男女雇用機会均等法が施行された。創刊翌年には昭和天皇の大喪の礼。そこに世界各国から集まったVIP夫人の服、持ち物、靴を著者がチェックすると半分以上がシャネル製品。女性の社会進出とブランド志向。どちらも、編集部は敏感にキャッチした。雑誌とその記者・編集者の本領発揮だ。
何が変わり、何が変わらないのか
その後、世の雰囲気や女性の嗜好は変わらなくても、雑誌界は今や大半が部数減のただ中。「世の中と人の動きを描いた栄華物語であるが、二十数年後の今では無常を感じさせる平家物語の味わいもある」と、東京新聞と中日新聞で評者の森彰英さん。雑誌片手に歩く読者は消え、女性たちはスマホを手に街を行く。何が変わり、何が変わらないのかを、この本で考えてみるのもよさそうだ。書評は読売新聞にも。
<もう一冊>ごく普通の女性を描いたといえば『わたし、解体をはじめました』(畠山千春著、木楽舎)は、OLが猟師へと変身した実話だ。副題は「狩猟女子の暮らしづくり」
横浜の映画配給会社を経て福岡県でシェアハウスを運営しつつ、山で昨秋から今春までにイノシシ4頭をとり、海ではワカメを。ネットのマップも駆使しての奮戦記が日経に。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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