教育でもビジネス分野でも英語重視が叫ばれるなかで、日本語の機能と美しさを説く本が出た。4カ国語をこなす外国人作家による『驚くべき日本語』(ロジャー・パルバース著、集英社インターナショナル)だ。
曖昧で非論理的で国際コミュニケーションに日本語は向かないといった誤解・偏見をばっさり切り捨てる。シンプルなのに深い表現ができる言葉として「世界語」に使われる可能性までも持つことを、宮沢賢治や芭蕉、与謝野晶子、萩原朔太郎、一茶らに触れながら説明する。英語で無理無体な会議や講義をする企業や大学がなんだか滑稽に見えてくる。【2014年4月13日(日)の各紙からⅠ】
曖昧でもないし、むずかしくもない
会議はもちろん社内のコミュニケーションすべてを英語でやることにした企業もある。国際的な事業展開のためだそうだが、中国や中南米には進出するときはどうするのか、出かけて行った現地の母国語や文化なんかは無視していいとでもいうのか、素朴な疑問がわく。だいいち、自分たちの言語を日本国内においても使わせないとは自己存在の否定じゃないかといったお固い批判以前に、「アホかいな」的な違和感が抜けない。
この国をおおう英語重視の勢いはいっこうに変わらないが、せめて日本語の良さも知ったうえでやってほしいと思う人もいるはずだ。そこへ、この本が応えてくれる。世界語にもなり得る日本語の長所を擬態語や助詞、敬語の機能などの実例も入れて論証する。
日本語は「かな」を足すだけで、別のニュアンスを加えられる。少しの分量で多くを伝える。曖昧でもないし、むずかしくもない。そう著者は自信を持って言い切り、さらに「日本の国際化は、英語で始まるのではありません。日本語で始まるのです」と語りかけてくる。
「日本語の美に対する新鮮な感覚」
「日本語の美しさと普遍性について、驚くべき説得力」「日本語の美に対する新鮮な感覚を呼び起こしてくれる」と、毎日新聞の評者・沼野充義さん。書評は朝日新聞にも、こちらの評者は隈研吾さん。
<もう一冊>この著者もとり上げた松尾芭蕉。彼の名作をRPGに見立ててひも解く『本当はこんなに面白いおくのほそ道』(安田登著、じっぴコンパクト新書)が読売新聞に。
芭蕉のトークに導かれて、門人たちは実際には行ったことのない東北を心で旅したという。詩人の魂や四季の景色が「怪物」の代役。物語と現実の風土をいっしょに味わえる。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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