心を平静に保つのが難しい時代なのかもしれない。若い僧侶が『しない生活』(小池龍之介著、幻冬舎新書)で、不安や不信感に惑わされずに自分をしっかり見つめようと勧めている。誰でも多数の人とインターネットで簡単につながれるはずなのに、こういう本が求められる。「つながりすぎない」「イライラしない」「言い訳しない」「せかさない」「比べない」が各章ごとのタイトル。これだけでも現代人に何が必要か、浮かんでくる。【2014年4月6日(日)の各紙からⅡ】
何か「する」より「しない」で心静かに
スマホや携帯メールを一心に打つ人を街で見かけないことは、まずない。そんなに誰かといつもつながっていたいのかと言いたくなるけれど、若い世代を中心にこれはもう呼吸にも等しいことかもしれない。おかげで、人とのコミュニケーションが深まり、豊かで温かい結びつきが生まれているかというと、正確なところは知れないが、そうでもないらしい。少なくとも、不安や不快感にさいなまれる人がいっこうに減らない。
本は、朝日新聞(東京本社発行版)に2年半にわたり連載されてきた「心を保つお稽古」から、煩悩の数にあわせたのか、108本を集めた。著者は1978年生まれ、東大教養学部卒のお坊さん。『もう、怒らない』(幻冬舎文庫)や『超訳 ブッダの言葉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などの著書がある。
『しない生活』では、ブッダの言葉にも触れながら、自分は「嫌われているのでは」「低く評価されたのでは」などの煩悩からの脱出を説く。情報が増えるほどに心は乱れる、立ち止まって自分の内面を丁寧に見つめる、何かを「する」のでなく内省により心を静める「しない」生活を稽古しようと提唱する。
心や内省が重要という考え方は特に新しくもないが、具体策として「自分は何に怒りっぽいのかをチェックするとよい」「自分が老いて死ぬことを忘れている愚かさ」といわれれば、年代を超えて通じそうだ。情報に振り回されて、自分で自分を苦しめてはいけない。
書評は朝日新聞に、評者無署名。