いっぷう変わった古書店の生い立ちをしるした『荒野の古本屋』(森岡督行著、晶文社)がおもしろい。散歩と読書好きの若者が自分に合った仕事にこだわり、古本とはまるで無縁な場所にある古ビルに一目ぼれして独立するまでの物語。IT起業家の活躍やカネもうけ話とはおよそ異なるけれど、時代に流されない人一人の確固とした生き方論、働き方論に通じている。【2014年3月30日(日)の各紙からⅡ】
家賃と食費で月6万5千円の図書館・古本屋めぐり
東京・茅場町の森岡書店は、国内外の美術愛好家やマニアから熱く支持されるスペース。その誕生までを自己紹介した一冊だ。
店主の森岡さんは1974年生まれ。大学卒業後1年間、就職せずに家賃と食費を合わせて月6万5千円の生活を送りながら、図書館と古本屋めぐりをした。神保町の老舗古書店に就職。32歳で独立したのは写真集の魅力にひかれたのと、古書店街のイメージがかけらもない一角に1927年築のビルを見つけたことからという。
今は美術関係の本を扱うだけでなく新しい才能をも発見する「オルタナティブ書店」をめざし、ギャラリーも併設してアーティストたちの個展も開催している。
「自分の好きなことを突きつめ、それを仕事にする。苦労もあるが、それ以上の喜びがある」と、毎日新聞で「魚」1字の評者が共感を寄せる。趣味と好きなことをやり続ける、充実の人生航路がたしかにここに。