【書評ウォッチ】おもてなしを企業経営に持ちこむと? 日本型接客術を生かせるか

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   東京オリンピック招致のキーワード「お・も・て・な・し」を企業にとりいれようという動きが強まっている。得意だった製造技術の革新が米国のIT革命や新興国の台頭でいまいちパッとしきれない中で、日本社会に根づいた接客術に活路を見出せるか。『効率経営から「おもてなし経営」の時代へ』(波形克彦、小林勇治編著、同友館)が、現状を日米の実例からわかりやすく解きほぐす。これがカネもうけの手段ばかりに悪用されず、消費者や働く人にとっても良い方向に生かされるといいのだが。【2014年3月16日(日)の各紙からⅠ】

サービス残業や低賃金、非正規雇用の問題は

『効率経営から「おもてなし経営」の時代へ』(波形克彦、小林勇治編著、同友館)
『効率経営から「おもてなし経営」の時代へ』(波形克彦、小林勇治編著、同友館)

   セルフサービスの本場アメリカの小売業界でも対面式の販売やチェックアウトが増えているそうだ。本はアメリカでもサービス強化の傾向が広がりつつあることから書き起こし、日本の製造・飲食・宿泊業など28社の事例を具体的にたどる。おもてなしこそが「経営革新の鍵」と、コンサルタントや中小企業診断士の編著者2人が強調している。

   本の構成と反対で、まず日本のおもてなし接客術があって、それが世界に波及しかけているということだろう。「本場日本」のおもてなしは、利益追求のために始まったのではなく「とりなし」「ふるまい」「真心」「寛大」「気配り」の、なかなか深い概念だ。「無私無欲」という意識も込められている。今日の企業経営に持ちこむとなると、少しばかり心配な、釈然としない部分もある。

   経営といえばまず賃金カットといった俗物経営者の常とう手段よりははるかにマシだが、おもてなし経営を全面的に称賛していていいものか。そこにあふれる接客笑顔のかげにサービス残業や低賃金、非正規雇用の問題が隠れてはいないか。日本の現状からすれば、おもてなしにかこつけた経営理念の悪用を見逃してはいけない。

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