【書評ウォッチ】「昔は良かった」はきれいごと 今に通じる大ウソ・古典の虚像と実像

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   よく言われる常識をコテンとひっくり返すのも、本の務めだ。『本当はひどかった昔の日本』(大塚ひかり著、新潮社)は、昔は良かったという教科書的なきれいごとを見事に否定した一冊。「美しい日本を取り戻そう」とはどこかの政治家のうたい文句だが、その種の国は実際にはほとんど存在しなかったことを古典にある育児放棄や介護地獄、ブラック企業などを例に解説する。それらが今の世に通じているから、恐ろしい。きれいごとにだまされてはいけない。【2014年3月9日(日)の各紙からⅡ】

家庭内暴力や児童餓死、弱者や老人切り捨ては昔から

『本当はひどかった昔の日本』(大塚ひかり著、新潮社)
『本当はひどかった昔の日本』(大塚ひかり著、新潮社)

   昔の美しいニッポン像はきれいごとどころか大ウソじゃないか。読むと、そういう気分にさせられる。それが必ずしも誤解や誇張ではないらしいという説得力もある本だから、この国と古典説話の実像と虚像を考えてしまう。

   著者は古典の楽しさを若者たちに伝えてきたエッセイストというから、ぶっちゃけ実話の趣もある。現代の家庭内暴力や児童餓死、弱者や老人切り捨て。どれも昔もあった、ときには横行したそうだ。むしろ捨て子、育児放棄満載の社会だった。「夜泣きがうるさい」と子を捨てるようシングルマザーに迫る村人たちの話だとか。

   古典といえば、源氏物語的な恋愛模様を思い描く人もいるだろうが、美醜による差別や美貌ゆえに望まれて男と次々に関係し、育児を放棄してしまった母の話も。リアルさは現代に通じる。

   「昔の日本はよかったのに、対して現代は病んでいるという俗論を、バサバサと斬りまくる」と、読売新聞の評者・万葉学者の上野誠さん。東京新聞と中日新聞では評者の歌人・水原紫苑さんが「昔の日本も今の日本も、人間の心は闇である。ただ、今はそれを隠そうとして、より深い闇の中で人々が倒れて行く」と解釈している。

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