東日本大震災の3・11を意識した関連本が各紙に並ぶなかで、独自の視点からまとめた2冊が鋭い。『人間なき復興』(山下祐介・市村高志・佐藤彰彦著、明石書店)は、原発再稼働に邁進する政府の帰還政策と世間の無理解を社会学者と被災当事者が問いつめる。『地震と独身』(酒井順子著、新潮社)は、家族の絆が強調される一方でほとんど報道されなかった独身者の声と行動をエッセイストが拾い集めた。強烈な問題提起と、ユニークな角度。同時に、いまの社会を反映してもいる。【2014年3月9日(日)の各紙からⅠ】
反発を買いそうな問題も遠慮なく
今も26万人以上が避難生活を続けている。福島第一原発の地元、富岡町から避難した被災者の声が『人間なき復興』の原点だ。
政府は除染と雇用創出で帰還促進を図るが、そこでは被災者個々の複雑な事情はひとくくりにされてしまう。
「もう原発はこりごりだ」との貴重な体験や意見などはどこかに消えていくか、聞かぬ振りをされて風前の灯扱いに見える。事故後も変わらない社会システムの延長線上で、復興政策が進められ、結局は原発維持をめざす政府の思惑が露骨になりつつある。この現状を本は分析し、「人が帰還してこそ復興である」と訴える。
一方で、原子力政策が変わらない原因は国民全体の「不理解」にあると著者らは遠慮なく指摘する。「賠償がほしいから帰らないのか」といったねたみ、ときには偏見。世間の冷たい反応を臆せずとり上げた。うっかりすると反発を買いそうな内容で、マスコミやタレント学者が触れたがらない側面だ。
国民全体に「偏在する不理解を突破できるか」「最大の課題がここにある」と東京新聞と中日新聞の評者・米田綱路さん。政権と世間の現状という壁を指さした、告発の一冊といっていい。