貧困対策の入口と出口を広げ、「子どもの貧困問題」から始める
しかし、著者は、こうした「適正化モデル」時代も続かないと予言する。制度の適用を厳格化することは、「救わなくてはならない人たちを切り捨ててしまう」リスクを高めるという理由だ。以前、北九州市で発生し社会問題となった孤立死事件のようなスキャンダルが一つ起るだけで、世論は変わるだろうという。
両極に振れがちな生活保護行政の歴史を振り返れば、両モデルの対立点を殊更に強調するような不毛なアプローチを改め、今、生じている現実を踏まえ、誰もが合意できるところから着手すべきと語る。
「孤立死や不正受給のような刺激的な事件を取り上げて、現在の体制を批判するよりも、日々の実践を通じて、不正受給には縁のない、どこにでもいる『ふつうの』生活保護利用者の気持ちに寄り沿うことを優先する」
「利用者の声を聞き、現場の苦労をねぎらい、人権を守るべきだという弁護士の言葉にうなずき、これ以上の財政負担は勘弁だという金庫番に頭を下げる」
著者自身が、切れ味が鈍く「なまくら」と卑下するこの統合モデルは、貧困対策の「入口も出口も広げよう」と説く。そのポイントは、①貧困になる前の予防をしっかりする、②貧困になったら事態が悪化する前にしっかり支える、③早期に貧困から脱却できる体制を整えるの3点だ。
そして、まずは国民全体で合意が得られている「子どもの貧困問題」から実行していくべきとする。著者は、前著「生活保護VSワーキングプア」(PHP新書)で、生活保護の対象者を絞り込むことの最大の被害者は「子どもたち」だと強調したが、日本でも「貧困の連鎖」が確認されている現状を顧みれば、その通りであろう。
その意味で、昨年、改正生活保護法とともに成立した「子どもの貧困対策法」と「生活困窮者自立支援法」は、新しい貧困対策を進める上で鍵を握る重要な枠組みだ。これまで生活保護は、お金を配ることにのみ焦点が当たっていた。しかし今後は、経済的支援だけでなく、自立に向けて、どう寄り添って支援するかが問われることになる。既に、各地で生活保護世帯の子どもの学習支援などの取組みが始まっているが、大切なことは、こうした寄り添い型の支援がどこまで効果を上げることができるかであろう。新たな貧困対策の展開を期待したい。
厚生労働省(課長級)JOJO