お粗末な政治家が政党内の力関係で閣僚に選ばれてしまうところに議会政治のやるせなさがある。『むしろ素人の方がよい』(佐瀬昌盛著、新潮新書)とはなんのこっちゃと聞き返したくなる書名だが、実は防衛大臣の話だ。
自民・民主どちらの政権でも「言語に絶する」バカ大臣がいた一方で、防衛政策とは無縁だった坂田道太氏は就任(当時は防衛庁長官)するや猛勉強と素直な視点で「玄人」にはできない改革を数々推進した。その足跡を検証することで、本はまともな政治と権力の使い方を問いかける。【2014年2月16日(日)の各紙からⅠ】
派閥順送りが繰り返したバカ大臣
ウンザリするぐらいひどい大臣は、ずいぶんといた。それが常に論争の中心にさらされ、うっかりすれば戦争にもつながりかねない防衛トップに任命されるとは。そういうことが過去、信じられないほど繰り返されてきた。
戦後八十人出た防衛省(庁)の大臣。民主党政権でも防衛問題を理解せず、トンチンカンな国会答弁を繰り返したのが二人続き、野田首相が元制服組の森本敏氏を起用した途端に周囲がホッとしたというからひどいものだ。自民党政権でも「重要な質問ですから事務当局に答えさせます」と答弁したおじいさん大臣がいた。派閥の順送り人事だったらしい。
この本では元防衛大学校教授の著者が、1974年に三木内閣の防衛庁長官に就任した坂田道太氏の改革を評価して「むしろ素人がよい」と言い切っている。
もともと文教族議員の坂田氏自身も防衛・安保問題には「全くの素人」だったと告白しているが、就任後から国際情勢や防衛政策の課題把握に努めた。情報公開を進めて「町で自衛官をみかけたら、気軽に話しかけてみてください」と自ら広告を書き、新聞投書欄での批判には「お答えします。自衛権のための力は合憲です」と新聞紙上に返書を載せた。自衛官の待遇改善や「防衛計画の大綱」策定などで大きな足跡を残したという。