意見や立場を超えて人をひきつける政治家がたまにいる。田中角栄元首相は確実にその一人だ。かたわらで23年間を過ごした秘書が語る内幕をもとにした『角栄のお庭番 朝賀昭』(中澤雄大著、講談社)は、コンピューター付きのブルドーザーといわれた人間の素顔を伝えておもしろい。政界の打ち明け話、昭和史の一端としても読ませる。
だからといって金権政治を肯定するわけにはいかないが、その大物ぶりが魅せるのは今の政治家大半のチャチっぽさとひき比べてしまうためかもしれない。【2014年2月09日(日)の各紙からⅡ】
間近の目撃者だけが持つ説得力
朝賀昭氏は60年安保のころ、自民党本部でアルバイト学生をしていて、騒々しいチョビ髭男、43歳の自民党政調会長、田中角栄と出会ったのだそうだ。この縁自体もおもしろいが、正式な秘書となり、角栄の金庫番で愛人でもあった佐藤昭さんを支えた。やがて田中軍団秘書会のまとめ役にもなる。
本は、彼の体験談をもとに毎日新聞記者の著者がまとめた。吉田茂、池田勇人、佐藤栄作ら、自民党黄金期の歴代首相や若き日の小沢一郎、「反角」だった石原慎太郎氏らも登場する。政治手腕や権力とカネの問題にも触れている。
いま「角栄最後の秘書」が語りだしたのは、「その生きざまを語ることに、この国難を打ち破るヒントが詰まっているのではないか」と考えたからだという。そこには間近にいた目撃者だけが持つ説得力が。もちろん、あくまで元首相と一心同体の観点であることは、意識して読まなければいけないだろう。