上海の美人スパイめぐる"新解釈" 日中両国の平和希求する"素顔"描く

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900枚の大作

   仕上がった作品は、原稿用紙換算で約900枚の大作。執筆開始からほぼ1年をかけて完成させたという。

   鄭蘋如は、日本に官費留学経験を持つ中国政府高官の父と、その下宿先で働いていた日本人女性との間に生まれた。さまざまな人物の回想録などで「絶世の美人」といわれている。

   鄭蘋如をモデルにした本書の主人公の名は趙靄若(ジャオ・アイル)。アイルは、アルファベットでEire。物語の「序」で、Eirene(エイレーネー/アイリーン)、つまり「平和の女神」の仮の姿であることがほのめかされる。

   物語の始まりは女子大生時代から。当時からその美貌は評判で雑誌の表紙を飾るほど。だが日中間の紛争は収まる気配はなく、父親が中国人、母親が日本人という環境から心穏やかならざりし日々を送っている。

   全6章のうち、1~5章が、主人公の揺れ動く気持ちを背景に工作員としての成長物語や、日中戦争の和平工作の表裏で行われた駆け引きに費やされている。著者の「史実と史実の間を創作で埋める作業」が読み応えを与えると同時に、読みやすく展開する。

   そして、第6章で「潜入」と、初めて主人公が工作員の小説らしいタイトルがつけられ、彼女の"最期"がつづられる。

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