「俺は好きでこう生きてんだ」と渋い一喝が飛び出しそうだ。『独居老人スタイル』(都築響一著、筑摩書房)は、お年寄りにともすれば押しつけられるイメージをひっくり返した一冊だ。生き方を決して変えようとしない16人のユニークでマイペースな日常を掘り下げた。明るい、軽やか、おもしろいうえに毅然・端然。それぞれが高齢化社会に一本ずつ、心棒を通した感じがある。理屈を超えた指南書の一面も持ち合わせている。【2014年1月26日(日)の各紙からⅠ】
老境のイメージを変える
国が老いていくからといって、人間までが朽ち果てるとは限らない。
ディズニーランドのダンサー、ストリップの合間のお笑い、山小屋の従業員。一つの場所にじっとしていられず、職と住まいを転々。今も埼玉と福島にボロ家を借りながら浅草の串揚げ屋ビルの上にもタダで住む奇妙な3重生活の1950年生まれ。自分自身を「ばかですねえ」と笑い飛ばして、あっけらかんとしたものだ。
自宅の庭で40年間「首くくり」演劇を続ける66歳。あとはコーヒー、本、こたつにもぐる繰り返し。それでも「昨日の内容っていうのが、今日も当てはまるとは限らない」
鳥取のカリスマ輸入雑貨店オーナー67歳は「同世代の友達なんて、つまらないからひとりもいない」と言い切って、若者たちとおしゃべりに、ドライブに。
どれも、一見わけがわからない。けれど、深い。そう思わせる生き方のぶ厚さがある。
「退屈しないよ、頭の中が休んでるヒマないからね」(映画劇場のお掃除担当)
「24時間ぜんぶ、自分のために使えるんやもん」(舶来居酒屋店主)
登場する老人は生活パターンに自信と誇りと開き直ったような強靭さを持ち合わせる。「花も実もある生き方」「老境の概念をがらりと変える」と、読売新聞の評者・平松洋子さん。高齢化時代の生存スタイルといわれれば、他人が文句の言いようもない。
けんかに探った日本文化
ほかには、『忠臣蔵まで 「喧嘩」から見た日本人』(野口武彦著、講談社)が、暴力沙汰から文化と制度の問題までを考えて、おもしろい。けんかっ早いからではなく「男がすたる」からケンカしてきたのが日本人だという。
そこから喧嘩両成敗の概念も生まれてくるのだが、政治的にねじ曲がったのが赤穂事件。為政者に対抗した忠臣蔵の自力救済劇に、日本文化の源流を探った。東京新聞の評者は伊東潤さん。
(ジャーナリスト 高橋俊一)