支え合う夫婦、がんを通じて、新しい人生を知る
治療が苛烈であること、そして、否応なしに「死」を意識せざるを得ない極限状況となること、この2点だけでも、がん患者にとって、心の支えは、とてつもなく大切だ。そして、それは、がんと闘う患者だけでなく、その家族にとっても、同様に切実だ。
本書では、著者自身や同室の患者の状況がよく描かれている。夫婦の結び付き、交流の乏しかった子どもとの交わりなど、リアルな話がどんどん出てきて、我が体験も重ね合わせ、思わず涙を禁じえなかった。
前立腺がんが再発し、亡くなった同室の桜木さんの言葉。
「娘が大きくなるにつれ、だんだん会話が少なくなってきた」、「社会に出てからは年に1~2回顔を合わすくらいだ」、「あの子とこんなに話をしてるのは初めてだ」、「考えようによっちゃーよ。病気も贈り物だよな」。
著者も過酷な闘病を妻と共に乗り越えていく。抗がん剤の副作用(末梢神経障害)のために長時間、筆を握ることができない後遺症が残ってしまったが、絵柄を変えて、再びマンガの世界に戻ってきた。それは、この夫婦にとって、過去の健康だった時代に戻るプロセスではなく、新しい人生のスタートだった。
「命の代わりに失くしたものは、たいして重要なものじゃない」、「僕は生きてる。何度でも、どこからでも、やり直せる」。
本書は、万年アシスタントだった著者のマンガ家としてのデビュー作。がんを通じて、自ら発見、開拓した新しい境地である。
厚生労働省(課長級)JOJO