治るがんと治らないがん―抗がん剤治療をどこまでやるか―
著者が肺への転移を告げられた際の主治医の言葉。
「当院で精巣腫瘍の治療をした方はこれまでに68人いました。67人が治療を終え社会に復帰し亡くなったのは1人だけです」、「精巣腫瘍は治せるがんです。ただ、この亡くなった1人の方、私の担当ではなかったのですが、改めてカルテを見返してみても、私も同じ治療をして同じ経過をたどってしまったとしか思えません」、「決して油断しません。徹底的にがんを叩くきつい治療を行います。どれだけ泣いても構いませんのでやり遂げてください」
著者は、「治る」可能性を信じ、強烈な抗がん剤の副作用に耐えた。しかし、残念ながら著者のように抗がん剤が有効な場合ばかりではない。むしろ、現実には、治癒が見込めないことも多い。実際、抗がん剤は回を重ねるごとに副作用が厳しく出てくるという。また、吐き気、下痢、痛みなどの副作用は、患者自身のQOL(生活の質)を損ない、治療中は、人格すら歪めてしまうこともある。「治る」ためのプロセスなら、厳しい副作用も覚悟できるだろうが、わずかな期間の延命だとすると、躊躇を覚えるのも正直なところだ。
他方、患者自身の葛藤もある。治る、治らないの違いも所詮、確率の問題。「どーせまたダメだろーって思っちゃいるんだ。思っちゃいるんだけど、ちょっとは期待しちゃってる」とは同室の前立腺がん患者の言葉。
どの治療法を選択するのか、いつまで継続するのかなど、判断はとても難しい。最近、再び近藤誠医師の抗がん剤治療不要論などがメディアを賑わしているが、重要なことは、患者自身が、人生のラスト・ステージを、その人らしく生きることができるかであろう。がん治療の在り方は、徹頭徹尾、こうした視点から考えられるべきことと思う。