『スティーブ・ジョブズ』(I・II 、W・アイザックソン著、講談社)は話題を集め続けている本の一つだろう。常識にとらわれず不可能を可能にしてきた個性と行動力が2年がかり50回のインタビューから浮かび上がる。ジョブズものが数ある中で、もう古典の雰囲気も。「今読みたい一冊」として日経新聞がトップにあげている。【2013年12月29日(日)の各紙からⅡ】
「伝説の経営者」は何を考えていたか
今世紀を代表する経営者であるとともに取材嫌いで有名なジョブズ氏の肉声が盛られていることが、この本何よりの特徴だ。「若い連中にとって世界はどこも同じ」「僕は自分を暴虐だとは思わない。お粗末なものはお粗末だと面と向かって言うだけだ」
いまや「伝説の経営者」となりつつあるジョブズ氏が何を考えてアップル社とそのITシステム、斬新な製品デザインを作り上げ、躍進する企業の中で何を考えていたのか。氏の素顔とともにライバルのビル・ゲイツから、「不都合な真実」で知られるゴア元米副大統領、メディア王ルパート・マードックまでが登場する。もう、なんだか大河ドラマだ。
この日経記事は「気鋭のエコノミスト15人」が薦めるとの触れ込みで、ジョブズ氏の本を選んだのは神戸大の小川進さん。ほかには『近代日本の官僚』(清水唯一朗著、中央公論新社=選者は清家篤・慶応義塾長)もおもしろい。
官僚という統治システムの理想と変遷を描いた良書。ただ、有能な官僚たちがいつの間かに自分たちが優遇されて当然という感覚を持ち、その下でうごめく小役人までが右へならえの天下り先やメリット確保に傾斜していくあたりもとらえてもらわないと、「お役人への理解と弁護の書」だと誤解されかねない。
大震災と向き合った2冊
一方、東日本大震災に宗教がどうかかわるかをつきつめた『黒い海の記憶』(山形孝夫著、岩波書店)や宮城県の海岸で撮り続けてきた写真家の展覧会に向けたトーク集『螺旋海岸 notebook』(志賀里江子著、赤々舎)を朝日新聞の書評委員、赤坂真理さんや鷲田清一さんが読書面で薦めている。どちらも、大震災との向き合い方は深遠で、衝撃的だ。
日本人が大震災を問い続ける活動は今年も終わることなく続く。その大きな課題をかかえているのは、もちろん宗教家や研究者、芸術家だけではない。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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