霞ヶ関官僚が読む本
元禄貨幣改鋳、時代が早すぎた経済観

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白石「改鋳が天災をもたらした」

   宝永六年将軍綱吉が亡くなり甥の家宣が継ぐと、新井白石の影響力が大きくなる。貨幣改鋳は続けられるが、重秀が最後に行った三度にわたる銀の改鋳は、改鋳の告知のない非公式のもので、1年5か月間に銀の含有量を五割から二割に減らすというかなり強引なものであった。これは、将軍宣下式、江戸城修復、綱吉廟建設などの財源捻出のためのもので、重秀が主張した旗本給与カット案が老中たちに否決されたことに伴う緊急避難的なものであったが、この専ら改鋳益狙いの強引な措置は、金銀を神聖視し貨幣改鋳を不正義と考える白石による重秀排撃の直接的契機になった。

   新井白石は「折たく柴の木」で、重秀の「大災害に対処するには当面改鋳でしのぐほかない」旨の発言を、「初めに改鋳のようなことをしなければ天災も起きなかったかもしれない」と批判している。白石はこの前近代的な批判と、奸邪であるとか不正があるといった人格攻撃で重秀排撃に成功している。今日でも政策論の場に陰謀史観めいたものが持ち込まれる例を散見するとき、思い半ばに過ぎるものがあるのは筆者だけであろうか。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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