【書評ウォッチ】ヤボな国になりそうな気配 天野祐吉さん最後のメッセージ

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   世の流れを見つめ続けてきた批評家の故天野祐吉さんが最後に鋭いメッセージを残していた。『成長から成熟へ~さよなら経済大国』(集英社新書)は広告論を超えて社会のあり方に疑問と提言を発した一冊だ。東日本大震災からの「再生」は、あの日3・11以後というよりも「以前の日本」へと向かっているのではないか。ハッとさせられる指摘が毎日新聞に紹介されている。【2013年12月15日(日)の各紙からⅠ】

個性的魅力「別品の国」とは

『成長から成熟へ~さよなら経済大国』(集英社新書)
『成長から成熟へ~さよなら経済大国』(集英社新書)

   著者・天野さんは広告と社会のありさまを考えた人なのだが、その言葉はいつも人間や国の姿にも的確な批判と問題提起を投げかけた。遺著となった今回は、まさに締めくくり的な内容だ。「経済力にせよ軍事力にせよ、日本は一位とか二位とかを争う野暮(やぼ)な国じゃなくていい」という提言を、評者の中村達也さんが引いている。

   「別品の国であれ」というのが、天野さんの願いだった。中国の皇帝が芸術品を一品、二品とクラス分けしたときに、普通の物差しでは測れない個性的魅力の作品を「別品」とよんだそうだ。そういう国は、たしかに、いいじゃないか。

   経済大国へと走り続けた日本は、バブル崩壊から大震災へ。いま、問題はこれからだ。しかし、本のタイトルのある「成長から成熟へ」と舵を切る雰囲気では、どうもなさそう気配がたちこめる。現実は3・11以後の日本再生ではなく、3・11以前の日本を再生する方向に進んでいるのではないかというのが天野さんの観察だ。ピッタリあたっているとしたら、なんとも不気味な展開というほかない。

じんわりと浮かび上がるものは?

   この不安感は、具体的には何だろう? 本も書評も触れてはいないが、秘密保護法や武器輸出の見直し、国民の知る権利や言論の自由を制限するような与党幹部の発言などがじんわりと浮かび上がってくる。「野暮な国」になって、それで国民が平和で幸せでいられるのだろうか。

   3・11といえば、これまでのルポや調査ものとはひと味ちがう『福島第一原発収束作業日記』(ハッピー著、河出書房新社)が朝日新聞に。ベテラン下請け作業員の著者が事故直後からほぼ毎日ツイッターで続けた700日間のつぶやき集というから、最前線の実態がこれ以上わかるものもない。

   あの時と今、何が起きたか・起きているのか。ほかの人では書けない「生の声」が政治家や役人と現場との深刻な食い違いを語る。資料価値もありそうだ。評者は原真人さん。

(ジャーナリスト 高橋俊一)

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