経済学による洞察の豊かさ・確かさに触れる
そのような経済学の流行に掉さして、他者の生き方への介入に禁欲的な経済学者の1人である東京大学社会科学研究所教授の大瀧雅之氏は、専門家の間で高い評価が確立している経済学の専門書「景気循環の理論-現代日本経済の構造―」(東京大学出版会 1994年)のはしがきで、「市場経済の『光と影』の両面をありのままに受け入れること、そしてそれを論理的に解剖し説得的な価値基準のもとで躊躇なく評価することこそ、社会科学としての経済学を学ぶ者の重要な責務」という。
大瀧氏の近著「平成不況の本質―雇用と金融から考える」(岩波新書 2012年12月)は、公正な所得分配の欠如と、グローバリゼーションの無批判な受容が、不況の本質的な原因であると説得的に主張する。不況感がなかなか払拭できない理由は、雇用者所得の低下にあることは、最近、広く共有されるようになったところだが、そのような輿論の先駆けとなった、経済学による洞察の豊かさ・確かさに触れられる、極めて有意義な1冊だ。
経済官庁(課長級 出向中)AK