霞ヶ関官僚が読む本
現代の経済学の潮流が迷い込みそうな陥穽

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   毎年ノーベルの命日である12月10日に、スウェーデンの首都ストックホルムでノーベル賞授賞式(平和賞のみはノルウェーの首都オスロ)がはなやかに行われる。経済官庁に属するものとして、ノーベル経済学賞(The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel)の受賞者には注目している。今年は、金融分野で、ラーズ・ハンセン米シカゴ大学教授、ユージン・ファーマ米シカゴ大学教授、ロバート・シラー米エール大学教授が受賞した。

経済学は「経済を扱う科学」か

『平成不況の本質―雇用と金融から考える』
『平成不況の本質―雇用と金融から考える』

   スウェーデン国立銀行(スウェーデンの中央銀行:Sveriges Riksbank)が資金提供して始まった1969年から2009年までのノーベル経済学賞の受賞者を紹介しながら、この間の経済思想の流れを俯瞰した好著が、「ノーベル経済学賞の40年(上)・(下)」(トーマス・カリアー著 筑摩選書 2012年)である。受賞者の傾向から、ノーベル経済学賞の関係者が、物理学、化学、医学と同列の「経済を扱う科学」(経済科学:Economic Sciences)であることをしきりに強調したがると批判的に分析する。

   そのようなことからすると、将来のノーベル経済学賞受賞者として、真っ先にあげられるのが、ハリ・セルダン(Hari Sheldon)だ。彼は、「歴史心理学」(the science of psychohistory)の創始者である。「歴史心理学」は、人間集団を統計的に扱う学問であり、人間ひとりひとりの行動を予測することはできないが、集団が充分な大きさを備えていれば、その社会的、経済的な動向が予測できるという画期的な理論である。

   ただ、それはSF(アイザック・アシモフ著のファウンデーション・シリーズ ハヤカワ文庫SF)の中の話ではある。経済学者の中には、ハリ・セルダンになりたいと公言する向きもある。しかし、このファウンデーション・シリーズでは、真の「歴史心理学者」は、「精神作用能力者」(精神的に人の行動に影響を与える超能力を持つ者)で想定されているということをどう考えているのだろうかと思う。自分の思い通りになるように、他の人々の心に介入するということは安易に認められることなのであろうか。人の期待に働きかけ、その学者が考える「理想的」な経済状況の達成を極度に重視する、最近の経済学の潮流は、究極的に「精神作用能力者」になりたいという陥穽に陥る惧れはないのだろうか。

【霞ヶ関官僚が読む本】 現役の霞ヶ関官僚幹部らが交代で、「本や資料をどう読むか」、「読書を仕事にどう生かすのか」などを綴るひと味変わった書評コラムです。

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