毒々しいタイトルでも中身は大まじめな本がある。『人類が絶滅する6のシナリオ』(フレッド・グテル著、河出書房新社)といわれたら、きわどい雑誌かテレビの低俗ワイドショーを連想するが、中身はいい加減さとは正反対。米科学誌の編集長が綿密な取材と調査から現代の今そこにある危機をとらえた警告の一冊だ。一見平和な日本ではあまり実感できないのだが、これを読んで世界のアレコレを考えれば、安閑としてはいられない事実がわかってくる。【2013年12月8日(日)の各紙からⅡ】
絶滅回避は人々の良識にあり
「信頼できる内容」と、読売新聞の評者・須藤靖さん。その「6」とはスーパーウイルスの蔓延、これまで繰り返されてきた大量絶滅、急激な気候変動、地球規模の食糧危機、生物兵器によるテロ、コンピュータへの強力サイバー攻撃だ。
どれも個々には指摘ずみのことばかりだが、問題は最近の動き。この本は深刻な実例を集めたリポートでもある。まさかなーとは思っても、ファンタジーとはまるきり違う現実問題が冷静、科学的に示される。
角度をかえて見れば、それぞれが世界の大弱点。中でも説得力があるのは、社会のインフラを広く制御しているコンピュータがサイバー攻撃される可能性とその不気味さだ。謎のコンピュータウイルスの数々。大半が、誰が何のために開発したのかもわからない。
ひと暴れで社会の微妙なバランスがつき崩されるかもしれない現実が、もうそこまで。この見解を誰も全面否定はできないだろう。「人類絶滅の回避は科学・技術の更なる進展に加えて人々の良識にかかっている」と、評者の深刻な受けとめ方もうなずける。
蔓延する「社会的手抜き」を社会心理学者が
人はさぼる動物だ。とくに集団の中にいると、一人だけの作業時よりも努力しなくなる。そういう人間の傾向と対策を考えた『人はなぜ集団になると怠けるのか』(釘原直樹著、中公新書)が朝日新聞に。これを「社会的手抜き」とよぶそうだ。
力仕事でも頭脳労働でも同じだという。今さら教えてもらわなくても経験上よく知っているよと言う人もいそうだが、授業中の問題行動、生活保護費の不正受給、スポーツの八百長など、あげればきりもなく蔓延している実態を社会心理学者が解き明かした。評者は森健さん。
バブルから今の日本へ切り換わった時をさぐる『1995年』(速水健朗著、ちくま新書)も面白い。震災、オウム、雇用の転換点。世が確かに動いた。読売の評者は開沼博さんだ。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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