原発と核兵器の密接すぎる関係を日本の現実と歴史から解き明かす『日米同盟と原発』(中日新聞社会部編、東京新聞出版局)が両紙読書面に。狭い国土にどうして50基もの原発があるのか、フクシマ後の今も保守政治家や官僚がなぜ原発に固執するのかなど、重量級の内容を備えている。
実は戦中・戦後からの長い経緯があるのだ。そうした情報が秘密保護法の強行採決によって一網打尽に握りつぶされそうな雰囲気の今だからこその意義もある。どんな事実も、国民が知らないうちに消されてはならない。【2013年12月8日(日)の各紙からⅠ】
「被爆国」がなぜ「原発大国」に?
原発の安全と要・不要をめぐる議論に一石をと、東京新聞・中日新聞で2011年8月からほぼ1年間にわたった連載記事。「被爆国」が「原発大国」になった軌跡について、100人以上の証言を集めて丹念に取材した。その単行本化だ。
戦争中の軍部には核開発の動きがあった。戦後は、GHQが原爆被害の調査データを秘匿。やがて中国の核実験に驚いた政府が極秘裏に核保有の可能性を研究し始めたという。
取材陣は内閣調査室の報告書にいきつき、意見を求められた国際政治学者の若泉敬氏が「自ら核武装はしない国是を貫くべきである」「能力はあるが、やらないだけだとの意思を国内外に示せ」と応じたことを明らかにする。
原子力と軍事の情報隠し
今日にいたる「潜在的核抑止論」だが、一方で原発建設には歯止めがかからない。こうした経過を本は強引な政治手法や核のゴミ問題にも触れながら追っている。
「権力者は電力供給と核抑止という二枚のカードを求めて原発を欲しがる」「彼らは原子力と軍事の一体化に関わる情報を隠し、操作してきた」と、評者・山岡淳一郎さん。
政府は今も原発を手放さず、今後も原子力を主要電源にしつづける魂胆が経産省を中心に露わになりつつある。これでいいのかと考える際の貴重な資料がこの本に。
こうした情報が、これからもスムーズに報道されるだろうか。「秘密保護法で遮られかねない時代に入った」と評者も言うように、不安は消えない。
本にはほかに、中部電力浜岡原発停止までの攻防を追った独自報道や福島原発の事故後の日本に対する米国のいらだちを示した会議録も収録。資料価値をいっそう高めている。
(ジャーナリスト 高橋俊一)
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